映画鑑賞記録006「関心領域」
アウシュヴィッツ収容所の所長ルドフル・ヘスとその家族の生活。
その美しい新居は収容所の隣。
そんなに高くもない塀には有刺鉄線が張り巡らされ、時折、銃声や収容されているユダヤ人の叫び声が聞こえ、煙突からは頻繁に煙が上がるが、殺害の様子などは一切なく、家族の生活を淡々と描く。
ドラマチックなできごとは一切なく、善悪とか感情のない、フラットな2時間。
こんな風に戦争や分断を俯瞰で見る、それもナチス側に立って、という作品は初めてだ。なんの作品を観ているのかを忘れるほど、太陽の日差しはあたたかく、咲き乱れる花々や高価な調度品を揃えた室内は常に美しい。俯瞰で見ることにより見える風景や、人間の心に、残虐さで訴える作品とは別の恐怖を感じた。世界に起きる問題について、対岸にいる感覚、意識しなくても分断を作る側になってしまう、私たち、私の映画でもあるのだという無力感に似た感覚に襲われ、放心状態で映画館をあとにした。
まるで、別の惑星から地球上の“戦争”という出来事を見てきたみたいで、その表現自体に驚いたし、こうやって感情を抜いた“ただの事実”の方が残虐さで訴えられるより心の骨を抜かれる“発見”に驚いた。
これは私の心に於いての反応なのか、他の人はどんなふうに感じるのか、また鑑賞後の心身の状態など、聞いてみたいと思う。