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映画鑑賞記録007「胸騒ぎ」

原題の「Speak No Evil」は悪口を言わないという意味。
悪口を言うことは悪いこと、勧善懲悪を美徳と我々は育てられたが、それは真実ではない。
分かっていても、身に起きる出来事には勧善懲悪のものさしを当てて測り、いつまで経っても理不尽さを抱え生きている。
大体の人間は、よい人間であろうとしながら、時々悪意を持った行動をするくらいだろうか。
そんな“どっちつかず”に対して、悪意は真っ直ぐでシンプルだ。
皮肉だけれど、悪の純度の高さを映画という形で見せつけられた。

個人的に数年前に、本作のオランダ人の夫妻パトリックとカリンのような人物に出会った。
付き合いが長くなるにつれ、どうして?ということが頻発し、自ら関係を断つ頃には心身ともボロボロになってしまった。
この経験で、人生で真の悪人に会ったことがなかった我が身を幸せに思うと同時に、根っからの悪人などいないと信じていた甘さを痛感した。
そんなつもりはなかったが、自分はいつの間にか文明社会の中で守られた存在に成長し、大自然や未知の文明、価値観の違う環境ではまるで歯が立たない弱いものに感じて自信がなくなった。
こういう人に「どうして?」なんて通用しない、どうもこうもない、悪に一直線なだけだ。
その後、今までと意識や行動を変えたけれど、一番は小さな違和感を見過ごさず、溢れる情報よりも自分の勘を信じるしかない。

論破されても笑って流し、娘の寝る場所として用意された小さなベッドとか、なんでも受け入れてしまう主人公夫婦に、数年前の自分を見返しているようで、自己嫌悪や後悔に襲われ、映画として楽しめず、とても疲れた。
今後の人生で遭遇するかもしれない「悪」に対して無力感を感じてしまう。
起きてもいないことに落ち込んでいても仕方ないので、この映画との出会いは「さらに気を引き締めよ」との宇宙からの警告と思うことにした。

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