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感傷だけが発達した、通称「おセンチさん」による「書評にかこつけた自分語り」。 『センチ…

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感傷だけが発達した、通称「おセンチさん」による「書評にかこつけた自分語り」。 『センチメンタルリーディングダイアリー』(本の雑誌社)、全国の書店、ネット書店で発売中。 試し読みは↓から。 https://note.com/honnozasshi/n/ne306a6119134

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自己紹介|はじめてのnote

はじめまして。 2023年に『センチメンタルリーディングダイアリー』(本の雑誌社)という本を出版した@osenti_keizo_lovinsonという者です。 発売以来、多くの書店さんの店頭で販売いただき、たくさんの読者にも恵まれ、様々嬉しい感想をいただきました。 中でも、ときわ書房志津ステーションビル店さんからいただいた「志津ノーベル賞」は、本当に嬉しかった。 その時のコメントがこれ。 僕はかつて物書きを目指してそれに挫折して、今ではしがない単身赴任のサラリーマンを

    • うまく生き残ってしまっただけの朝におれたちは|【続】センチメンタルリーディングダイアリー

      親に大学まで行かせてもらって、もっとまともな仕事に就いたらどうだと何人もの人に言われた。 どうして夜中に遊園地の掃除をする仕事が「まともな仕事」じゃないのか僕には分からなかったけれど、世間から見ればそうなのだろうということはなんとなく受け入れていた。 その仕事は誰も傷つけないら好きだったのだと、「まともな仕事」とされる仕事に就いている今から振り返るとそう思う。 誰とも喋らず、黙ってポリッシャーをかけて、汚水を回収し、モップで床を拭き上げ、ワックスを塗って乾くまで待つ。そ

      • こんな僕の世界に差し込んだ、強く柔らかな午後の光線|【続】センチメンタルリーディングダイアリー

        すべて何もかもが満たされていて、それでも人は誰かを切実に求めてしまうのだろうかと考えたことがある。 だけど、すぐに、人間はすべて何もかもが満たされていても「満たされていない」と感じてしまう寂しい生き物だからこの問いは意味がないかと思い直した。 だけど、今でも時々、誰かを切実に求めてしまうことの出発地点は「寂しさ」以外にあるのだろうかと考えてしまう。 誰も分かってくれないし、誰にも分かってもらえなくていいと思っていたあの頃じゃなければ、僕と彼は単に一回飲んだだけの知り合い

        • 街から書店が消える日におれたちは

          あの日、道後温泉駅舎のスターバックスで初めて二人きりで会ったコジマさんと交わした小一時間の会話が、それからの僕の人生を大きく変えた。 そんな、今まで誰にもしてこなかった話を今日はしようと思う。 コジマさんと初めて飲んだのは当時の僕の行きつけの店、ジョニーズダイナーだった。 僕が前職の書店勤務時代から仲良くさせていただいていた経営者の方から「今度、コジマさんも呼んでいい?」と声をかけられ、僕なんかと飲んで楽しいかなと思いつつ快諾したのだった。 コジマさんがつい直前まで、

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        自己紹介|はじめてのnote

          【続】センチメンタルリーディングダイアリー|癲狂院日乗

          雨がひどくなってきたから長男を塾まで送りに行くけどけいぞうくんも来る?とともちゃんが言うので、行く行く、と答えると、じゃあ、今着てるそのTシャツを別のものに変えてくれと言う。 長男の米津玄師Tシャツは良くてなんで俺のイエモンTシャツはダメなのか聞くと、サイズの問題だとのこと。 何年か前にユニクロで購入したその黄色いTシャツは、ともちゃんがチビTと呼んで嫌がるサイズで、彼女曰く「中年の貧相な体つきがみっともない」。 俺は別に気にしないと返すが、「わたしが嫌なの、帰りにどこ

          【続】センチメンタルリーディングダイアリー|癲狂院日乗

          『小山田圭吾 炎上の「嘘」』を読んで

          「総務の田中です」 そう挨拶した男に視線をやりながら、僕は「え、この人がタナヒロさん?」と目を疑っていた。 その日、僕は最終面接のためにロッキング・オン社のある渋谷インフォスタワーの19階を訪れていた。 社長の渋谷陽一、編集長の増井修、副編集長の宮嵜広司、と並ぶ錚々たるメンバーの脇に座っている猫背の男は、『ロッキング・オン』の誌面で「クーラ・シェイカーこそが革命を起こす!」と声高にアジったり、編集後記で増井さんに噛みついたりしていた「タナヒロ」のイメージとは全くかけ離れ

          『小山田圭吾 炎上の「嘘」』を読んで

          【続】センチメンタルリーディングダイアリー|すべての男は消耗品である

          令和四年九月十一日・水曜日。快晴。 取引先との定例会で大和西大寺へ。終了後、一緒に参加した部下三名と昼食。刺身定食千三百円。値上は痛いがやはり美味。 午後からは一人で京都の物件視察。移動中、メールチェックの合間に車谷長吉『癲狂院日乗』を読み進める。この上なく面白い日記だが、集中して一気に読むと鬱々としてくるので、案外、こういう読み方がよいのかもしれないと思う。 夜、Googleのお勧めで尾崎世界観のインタビュー記事が出てきたので斜め読み。「なぜ音楽だけでなく小説というチャンネ

          【続】センチメンタルリーディングダイアリー|すべての男は消耗品である

          【続】センチメンタルリーディングダイアリー|孤独への道は愛で敷き詰められている

          真唯さんとはバイト先のスーパーで一緒にシフトに入っているうちに自然と会話を交わすようになって、もっと仲良くなりたいなと思い始めた私だったが、女の人をどうやって誘えばいいのかいくつになってもよく分からず、悩んだ末に今度ご飯食べに行きましょうよと声をかけたものの、当然のことながらいつまで待っても彼女の方から都合のいい日程が提示される気配はなく、このままだとこの話はなかったことになると焦った私はある日、シフト終りに店の外で待ち伏せして「あの、ご飯行くって話なんだけど」と性急に話しか

          【続】センチメンタルリーディングダイアリー|孤独への道は愛で敷き詰められている

          【続】センチメンタルリーディングダイアリー|犬も食わない

          「あの、昨日の晩は、すんませんでした」 「いや、いいよ。俺も、ちょっと、酔っ払った勢いで、ひらのくんの彼女だって知らずにひどいこと言っちゃったから」 「でも、何も、てめえいい加減にしろ、とか、テーブルを蹴り上げたりとか、そういうのはやりすぎでした」 「まあ、あれはビックリしたけど」 「あの」 「ん? 何?」 「俺、ワタナベさんのこと、好きだから。だからよけいに腹が立って」 「うん、俺もひらのくんのことは好きだよ。彼女のために、あそこまでムキになれるなんて、ちょっ

          【続】センチメンタルリーディングダイアリー|犬も食わない

          【続】センチメンタルリーディングダイアリー|ハイドラ

          泣いてた鴉がもう笑った。母親がよくそう言って、まだ幼い僕をからかっていたことを思い出す。 泣いているときと、笑っているときがはっきりと分かれていたのは、いったいいつくらいまでだったのだろうと考えてみるが、うまく思い出せない。 それと同じように、泣きながら笑ってた、笑いながら泣いてた、怯えながら笑ってた、恍惚の中で泣いてた、あのときの自分もうまく思い出せない。 今の自分を振り返って、笑っているときも、泣いているときも、どうしようもなく空っぽだな、としか思うことはなくて、で

          【続】センチメンタルリーディングダイアリー|ハイドラ

          【続】センチメンタルリーディングダイアリー|パーティーが終わって、中年が始まる

          まだ二十代だった頃、オールナイトのクラブイベントを終えて、始発の電車に乗るためにみんなでダラダラ駅まで歩く時間が好きだった。 よく行っていたクラブスヌーザーやクラブKのラストはたいてい、ストーン・ローゼズの「エレファント・ストーン」で、曲が終わった静寂の後に、フロアのライトが灯り始め、非日常から日常へと緩やかに戻っていく時間が好きだった。 パーティーは終わってしまったけど、また来週末には別のパーティーがあって、僕たちはその「パーティーとパーティーの間」を「現実との闘争」と

          【続】センチメンタルリーディングダイアリー|パーティーが終わって、中年が始まる