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東京∞景 wishes you a Merry Christmasレポート(2023.12.22)
35秒で音楽を浴びられる空間はいかが
大森にはいくつか音楽が聴ける/見られる場所があるようだ。
しかし、JR大森駅から歩いて35秒という冗談みたいな距離で「生音」を聴ける場所は東京∞景をのぞいて他にはないだろう。
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継承された「大森で音楽を響かせるスピリット」
大森山王ブルワリーが12月に公式オープンした「東京∞景」は、今までJR大森駅から歩いて15分ほどの場所にあったホームグラウンド「アキナイ亭」で開催されていた”スケルトーン”をはじめとした音楽イベントの精神を引き継ぎ、気軽に音楽を楽しむ場を提供することを目指しているという。
柿(こけら)落とし公演はどなたに出演していただくか?
代表・町田は迷うことなくこれまで非常にお世話になってきBimBomBam楽団の大山渉氏に出演を打診。
店内の雰囲気を下見した大山氏の印象は想像以上に良く、快い返事をいただいたようであった。
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ライブハウス35 Secondsへようこそ
そして12月も末に近づいた22日を初日とし3日間にわたる「東京∞景 wishes you a Merry Christmas」が開催されたのである。
初日は大山渉氏率いるBimBomBam楽団のライブ。
鉄の扉を開けると、ピアノとトランペットの音が硬い壁を震わせていた。
リハーサル中にもかかわらずいつもの店内が本格的なライブハウスに様変わりしている。
嬉しげに、そして落ち着きなく歩き回る代表・町田の姿が印象的であった。
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18:30。
いつもの馴染みのお客様やBimBomBam楽団を目的に集まったオーディエンスが入店してくる。
一様にすこしよそ行きの表情をしながら店内を眺めたあと、オーダーしたビールを片手に会話が始まると、徐々にリラックスしていくのが傍目にもよくわかる。
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インド宮廷料理 マシャールが用意してくれたビリヤニの辛さに感銘を受けている人もいた。もちろんビールは進みまくりである。
音楽が空間に注がれていく
19:30。
5人のメンバーがそれぞれの楽器を構え、リハーサルの時点で早くもホームグラウンド化してしまった店内をゆったりと見回しながら演奏が始まった。
店内で初めて、20人余りのオーディエンスを前に鳴り響く生音。
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今年の初めにはがらんどうだったスペースに音楽がどんどん注入されていく。
プレイヤーとオーディエンスの距離が近い。
これまでいろいろなイベントを照らしてきた歴代のネオンサインたちが、今回も頼もしく光っている。
音圧を受けながら、みな演奏に心地よく体を揺らしていた。
ふと気になってテラスに出て、音の響き方を確認してみる。
池上通りの喧騒に掻き消され、周囲から苦情など出るはずもない。
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同じことを考えていたスタッフが、息を切らせて階段を上がって来た。
律儀にもわざわざ35秒歩いて、JR大森駅まで音の確認をしに行ったという。
「悔しいくらい音が聞こえない」とのこと。
それならば暖かい時期にテラス側で思い切り音を出し、ちょっと叱られてみたいものである。
この日は基本的にリクエストを受けて演奏する趣向。
大山氏の粋な計らいでこの店最初のリクエストは代表・町田氏から聞くという。
浮き足立つ代表。力強くスゥインギングな選曲。音に身を任せるオーディエンス。
それにしても演者との距離感が絶妙だ。外に目をやれば低いビルの夜景。
ベースやパーカッションの音圧がなんの変哲もない大森の商店街を嘘みたいにアーバンなものへ変換してくれる。
演奏の合間、来場していたお客様に話を聞いてみた。
「お店の雰囲気はどうか」「この空間でやりたいことはないですか」等々……
チルっぽいキャンプをテラスでやってみたい、もちろん音楽フェス、ダンスの発表会、タップとネオンがステキ、広いテラスが魅力……。
みなさん好意的な意見を寄せてくれた。
クリスマスに向けたワクワクをブーストさせるかのような痺れるセットリストは、オーディエンスの体温をひたすら上げ、熱で乾いた喉をビールで癒し、クールでやさしい大山氏のMCに和む幸せなループが終始会場に溢れていたと思う。
しんみりとしたエンディングになるだろうという予想は当然のように翻り、最後は代表・町田が奇妙な舞踏を披露しつつ奇声を上げ、それにつられてオーディエンスが踊り出す「いかにも大森山王ブルワリー」的な展開に発展し、呆れるやらホッと胸を撫で下ろすやら楽しげな展開で幕を下ろしたのであった。
ライブ後の熱が収まらない店内を眺めながら、ほかのホールでは味わえないオーディエンスとの距離感を味わえるとともに、ビールとお客様同士の素敵な化学反応がカジュアルに発生する空間を、駅から35秒という絶好の場所に生み出した実感を得られた素敵な夜だったと思う。
音楽にとどまらず、これから催されるであろう様々なイベントが楽しみで仕方がない。
(Text&Movie:ザキヤマ)