【天売島】それは、まだ知られていない楽園。
原付でゆく北海道の旅13日目。鏡沼海浜公園キャンプ場のプレハブ小屋で目を覚ます。昨晩は寒すぎて熟睡できなかったから、頭がぽやぽやする。外は小雨が降っていた。
▼前回までのあらすじ
利尻でも礼文でもない離島を探して
さて今日はどこに行こう。利尻島や礼文島の景色が素晴らしいことはよく聞いていた。しかしアマノジャクな私は乗り気になれず、グーグルマップを拡大したり縮小したりしながら「なんかないかな~」と唇を尖らせていた。
その時、利尻島の南に小さな島があることに気が付いた。小さいというか、小さすぎて画面の汚れかと思った。
ちっちゃ。いいじゃん、よく分からないけどここにしよう。いつの間にか雨は上がっていて、身支度を整えた私は天売島行きのフェリーが出ている羽幌港に向かった。
海鳥が愛した島「天売島」って?
日本海に浮かぶ天売島は、周囲12km、人口250人の小さな島。「海鳥の楽園」とも呼ばれるこの島は西側が断崖絶壁になっていて、その地形が繁殖に便利なことから、春から夏にかけて約100万羽の海鳥がやってくるそう。
羽幌港で乗船券を買って、フェリーに乗り込む。バイクを積むと結構お金がかかりそうだったので、今回はリトルカブを港に置いていくことにした。
睡眠不足のせいか出航した途端に爆睡してしまったのだが、突然「バッシーン!」という大きな音がして目が覚めた。慌てて起きると、波が荒いのか船がすごく揺れている。さっきの音は、大量の水が船の窓を叩きつける音だった。
出航から2時間弱で天売島に到着。船着き場まで宿のご主人が迎えに来てくれていた。日没まで時間があったので、荷物をご主人の車に積んで、近くのレンタサイクルショップで電動自転車を借りた。
日没まであと1時間半。チェックインを済ませた私は、すぐに自転車に乗った。
そこは、まだ知られていない楽園。
周囲12kmの天売島にはいくつかの夕陽スポットがある。人々が暮らしているのは島の東側のみで西側はほぼ崖になっていて、そこからの眺めがよさそうだ。
少し走るとワンコロお散歩中の住民に出会った。この島には柴が3匹居るらしく、そのうち2匹が対峙していた。
そして3匹目に遭遇。せわしなくてかわいい白柴だ。
そのまま進むと、あたり一面にススキが広がる道に出た。しかしまあ誰もいない。シルバーウィークの中日だっていうのに、全然人に会わない。この地球に私ひとりしかいないような感覚になる。
傾き始めた黄色い太陽がススキをキラキラと照らしていて、そんな天国のような道を自転車で駆け上がっていく。
息が上がる。
汗がにじむ。
太ももがパンパンになる。
風の音が聞こえる。
木々やススキが揺れている。
道には私しかいない。
空は澄んでいて、冷たい空気が耳を冷やす。
立ち漕ぎしながら坂を上って、綺麗だと思った瞬間にブレーキを握って立ち止まる。汗が首をつたって流れていく。また漕ぎ出すと、その汗が風に冷やされて気持ちいい。乾いた草木がサワサワ揺れる音に秋を感じた。
相変わらず誰もいない。
ここは、まだ知られていない楽園だ。
溶けそうな夕陽を望む
日没に近づき、私は観音崎という展望台から夕陽を眺めることにした。
さっきまで汗をかいていたのに、止まるとすごく寒い。というか風が強くて冷たい。でもそれどころじゃないくらい夕陽が美しかった。
天売島から見る夕陽はなんだか溶けそうで、ろうそくの火のような柔らかい燃え方をしていたように感じた。夕陽が沈みきるのを待って、最後の目的地へと向かう。
寂しげな天売島灯台
空が淡いピンクとむらさきに染まり始めた。
坂を下って、向かうは天売島灯台。灯台までの道はなかなか険しく。グーグルマップ上の道はあるが、実際は草が生い茂るでこぼこ砂利道。ハンドルを取られそうになりながら、ガッタンガッタン進んでいく。
赤と白のコントラストが美しい天売島灯台は、もうライトがくるくると回っていた。夜が近づいている。
鉄骨でできた手作りの展望台のようなものがあったので、登って夕焼けを眺める。やっぱりそこにも私ひとりしかいなくて、帰路についてふと灯台を振り返ると、ひとりぼっちの灯台が寂しそうに見えた。
「島の宿 大一」で過ごす夜
宿に戻った頃にはすっかり暗くなっていて、食事の支度をする音と匂いがした。たくさん走ったから腹ペコだ。
今日は「島の宿 大一」に宿泊。1泊2食付きで9,000円くらいだったかな。昨日は200円の宿だったし、贅沢してもいいでしょう。贅沢とはいえ1万円以下なんだから、北海道は本当に旅がしやすい。
夕食はホタテ、エビ、マグロ、カニなど海の幸がずらり。マグロは天売島で採れたものだそう。おひつに入ったご飯がツヤツヤでおいしくて、全部平らげてしまった。
お腹がいっぱいになった後はロビーで旅人たちと談笑。2人とも一人旅で来ていて、根っからの旅好きな彼らは、嫉妬してしまうくらい羨ましい経験やトラウマ級の恐ろしい体験をたくさんしていた。
ロビーが消灯の時間になったので、お風呂に入って、温まった体で布団に潜る。画面の汚れかと思った島に来てよかった、そう心から思いながら眠りに落ちた。
ーnextー