村上春樹風に、最近の過ごし方について書いてみた。
28歳という年齢に柚子はいささかの焦りを感じないでもなかった。
もともとは豊洲にある情報技術を扱う会社でエンジニアとして仕事をしていたが、昨年の10月に辞めてしまった。
失業して半年近くが経とうとしている。
今は雨の音が聞こえる清潔な部屋で、座椅子に座りながら
インターネットにアップロードする為の記事を作っている。
「自分に同情するな」
村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」の言葉がふと頭をよぎった。
日本という国に生まれ、28歳で定職についていない現状を世間がどう感じ、判断するのか、柚子は自分なりに理解していた。
誰にだって事情はある。しかしそれを分かろうとする人というのはあまりに少ない。
大衆が求めているのは単純化された具体的な事実であって、複雑性を伴う抽象的な事柄には興味がないのだ。
人がどのような問題を抱えて生きているか、どういった経緯で現在の状況にいるのか、それらを理解しようとするよりも見える部分のみで判断し、噂をした方が楽しいし、疲れないで済む。
だから、自分のことを分かって欲しいという欲求が強い程に、分かってもらえない現実に苦しむのだということを柚子は心得ていた。
柚子はカフェに行くことを日課としている。
少し前まではアメリカの大手企業が管理している、情報技術系の資格試験の勉強をする為に行っていたが、合格したので転職活動をすることにした。
カフェでコーヒーを飲みながらパソコンを触る。社会との繋がりが断たれている柚子にとって、それは大事な時間であった。
これからどういった人生が彼を待ち受けているのか。日本の未来や、世界情勢はどうなるのか。それは柚子の預かり知るところではない。ただ、何が起きたとしても受け入れて前に進むしか無いのだ。時間を戻すことは出来ない。我々が知覚できるのは、今というこの瞬間だけなのだ。
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