お星さまが見えない
疲れが取れない。歳を重ねるにつれて、まあ本当に疲れが取れなくなる。
寝ても疲れが取れないし、そもそも寝れなかったりもする。寝るのも体力を使う、と大人が言っていた意味がなんとなく分かるようになってきた。
だいたい、電車に乗っている時なんかずっとグッタリしている。首都圏の電車は、景色も何もなくて、大量の人を効率良く運ぶための箱でしかない。
電車に乗るのもグッタリするから、たまに家の最寄駅よりひとつ手前で降りて、歩いて帰る。
多分そっちの方が体力を使うんだけど、なんだか気持ちは悪くない。悪くないだけで、別に良くもない。
歩いている時は、何かを考えたり、何も考えなかったりする。
今日は、電車で途中から乗ってきた女性が、バニラの匂いがした。スーパーカップの匂いがするな、なんてことを思った。多分同い年くらいで、左の薬指に指輪はしていなかった。
東京はビルが高くて夜でも明るい。私が住む埼玉は、そんなに明るくないけど、でも星が見えるほど暗くもない。
高架下にコインランドリーがあって、夜にはもう閉店している小さいドラッグストアがある。
一駅分歩くから、線路沿いをずっとまっすぐ歩く。家に帰るにはどこかを左折しなきゃいけないんだけど、いつも間違えてしまう。だから、たまにドラッグストアを見ないで帰ってしまう。その時は、きっと遠回りをしている。
きっと遠回りなんだけど、地図も時計も見ていないから、別に遠回りでも気にならない。
お星さまのない真っ暗な空は、喜怒哀楽の何れも生み出さない。
お星さま、どこだろう、どこだろうって探し始めたら、多分疲れてしまう。疲れたり疲れなかったりを繰り返して、時間を食べながら歩いている。
明日はどうやって歩くだろう。
どうやってもきっと、お星さまは見えない。