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心臓と脚が震える重低音

下北沢、地下、数センチだけ高いステージ、立ち位置はいつもの下手。
フロアにはほとんど見知った顔、少しだけ知らない顔。
自分の背丈より少しだけ低いベースアンプ。ピックで弦を弾けば、ドッと心臓が震える重低音。

俺が、この重低音を鳴らしている。

自分のベースの音とJCの音はよく聴こえる。上手のマーシャルの音だけもう少し返してもらおう。
バスドラは、よく聴こえる。スネアもハイハットも、聴こえる。タムの音はもう少し欲しいけど、まあ、このくらいでもいいかな。

脚の震えが止まらない。
指先が少しだけ冷たい。左手の細かい動き、不安だな。あそこのフレーズ弾けないかも。
なんで、なんで、こんな身内ばっかりのライブで一丁前に緊張してんだ。
でも無理はない。だって、ライブハウスで演奏するなんて、10年ぶりくらいじゃないか。

情けないベーシストを他所に、容赦なくハイハット4カウントから曲が始まる。
脚の震えは止まらない。指先は冷えているけど、照明で顔は暑い。

脚の震えを隠すために、全身を大きく使ってリズムを取る。この方法は、意外と昔から変わっていない。
よく私の演奏の様を見て「楽しそう」なんて言ってくれる人がいるが、それは緊張をなんとか見せないようにするために、高校生の時に体得した術なのである。

自分たちの演奏で、フロアが少しだけ揺れる。
身体を揺らす人、じとっと見つめる人。
これだけ小さい箱だから、一人一人の顔がよく見える。本当は全員の顔を見たかったけど、緊張するから途中でやめた。
大学を卒業してから今もバンドを続けている同級生の顔だけ、一瞥した。
あなたたちは、こんな身内のノリよりずっと痺れるライブを、今もずっと続けているんだね。すげえよ。俺にはもう出来ない。

2曲目、3曲目といけば緊張は収まるかと思ったけど、全然そんなことない。脚の震えは、ずっと止まらない。ファズを踏むのもやっとなくらい、力が入らない。だから、身体を大きく、大きく使ってリズムを取る。
フロアは少しずつ温まっている。自分たちが鳴らした音で、拳を挙げている。

いいじゃん、生きている。今、生きているじゃん。

脚の震えも、指先の冷たさも、照明の暑さも、背中のベースアンプから鳴る重低音による心臓の震えも。
少しだけドラマーと視線を合わせる瞬間の安堵も、ギタリストのミスったって顔を見て笑う瞬間も、フロアの盛り上がりも。
生きている。今、生きている。痺れるぜ。
こんなにも、生きていると感じられる日が、ちゃんとあるんだ。

MCの時に、いやー、やっぱバンドって楽しいね。最高だね。と言った。
マイクに拾われてなかったけど、ステージのメンバーには聴こえていたはず。脳みそを通らず、脊髄反射的に、本当の本当の本心で出た言葉だった。
やっぱ最高だよ。バンド、続けたいな。

2025年1月12日(日)。
久しぶりにライブハウスでライブをしたこと。
下北沢の地下で自分が生きていたこと。

こんなにも忘れたくない1日が、出来てしまったな。
嬉しい。良い仲間に恵まれたから訪れた1日。

この1日を握りしめて、また日々を過ごしていこう。
そう思えた、そんな1日のお話。

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