ショートショート|デートごっこ
友達からゴルフクラブをもらったから打ちっ放しに行ってみたい、というのであれよあれよという間に彼女の仕事終わりに会うことになった。
「なんか、デートみたいですね。」
彼女は私の車に乗り込むなりそう言った。到底思ってもいないであろうことを平然と言ってのけるあたり、年下の彼女の方が一枚も二枚も上手である。
いざ打ちっ放しに行けば、先程までの余裕な素振りとは一転、不器用な初心者らしいスイングで一生懸命にボールを叩いていた。ただ、不器用ながらたまに自分の納得のいく打球が飛んでいるようだ。
「私、天才かもしれないです。」
金髪で派手なメイクに似つかわしくない、無邪気な笑顔で彼女は振り向いた。不覚にも、少しだけ時が止まった感覚をおぼえた。
一頻り打ちっ放しを楽しんだら、帰り路に着くため再び車に乗り込む。彼女の煙草のシトラスと私の煙草のベリーが入り混じった香りが、妙に生々しい。灰皿にある口紅の付着した吸殻が、生々しさをより増長させる。先程の無邪気さとはまた一転した様相を呈する。
「海でも見に行こうか。」
自分でも笑ってしまうような言葉を口走ってしまった。
「いいですね。」
と彼女が返す。“デートごっこ”の延長戦が始まる。
私は、決してこの時間をドキュメンタリーにしないよう、“ごっこ遊び”だと自分に言い聞かせて車を走らせる。そうでもしないときっと後悔するから。
そう言い聞かせながら、海と星が綺麗な海岸線へ、彼女が好きな宇多田ヒカルを流し、車酔いしやすいという彼女を悪酔いさせないよう、丁寧にアクセルとブレーキを踏むのであった。