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『人生のカレンダー 「家」の再生の物語(仮)』⑥

父との時間2


「この前、パパの家に行ったときに思い出したんですけど、パパとお母さんと三人で暮らしていたとき、常に山下達郎などの歌が流れていたんです」。

「うんうん」。

「以前からパパは、なぜだかカラオケに行こう行こうと言っていたんですね。それでパパの住んでいる地域のカラオケに行ったんです」。

「うんうん」。

「パパが家を出ていったのが夏だったんですけど、山下達郎の『さよなら夏の日』が流れていたんですね。これをパパが歌ったんです」。

「うんうん」。

「そうしたら、パパとお母さんと三人で暮らしていた時のことがいっぺんによみがえってきて、忘れていた楽しい思い出を一気に思い出したんです」。

「すごいすごい!」

「もう、パパも歌いながら号泣して、私も号泣して。それで私もこの曲歌ったんですけど、もう泣けて泣けて。もうね、大の大人が二人して号泣しているという…」。

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脳科学で「記憶のこぶ(レミニセンス・バンプ)」という現象があって「思春期に聴いた曲はその時の記憶と密接に絡み合っている」というもの。

音楽と記憶は密接に結びつき、音楽によって切り取られ、縁取られるといってもいい。

よく観ていたドラマの主題曲を聴くと、ドラマの情景や主人公のセリフや表情がありありと思いだされるのもそうだ。

ちなみにレミニセンス・バンプは40歳以上で強化される傾向があり、年齢を重ねるほど若いころの出来事を懐かしく好ましいものとして感じるとのこと。

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「それでね、私、お母さんとパパと私の三人で居た時のことを思い出したんですけど、今まで思い出は全部白黒だったんですけど、カラーになって、母も笑っていたんですね。」。

「おー」。

「お母さんが笑っていた顔なんて、すっかり忘れてしまっていたので、いつも怒っているような顔しか思い出せなかったんです。それが本当に35年ぶりくらいに笑った顔を思い出したんですね。しかもフルカラーで色まで鮮明に」。

「おー、うんうん」。

「それでねぇ、私、その時はお母さんのこと、ママって呼んでいたことを思い出したんです」。

「う~ん」

「私、お母さんのこと、ママって思っていたんだってことに気が付いて、私の中にママの笑った顔が記憶として残っていたんだということに、驚いたと同時に、すごくかわいそうな人だったんだなぁと思い始めたんです」。

「へー!」

「それで、パパと離婚した後、お母さんはかなり荒れた生活をするようになって、ママではなくなって女になっていくんですね」。

「そうだったよね」。

「今は、お母さんと何年もあっていなくて」。

「うんうん」

「それで、パパから連絡かあったときに、おばあちゃんが危篤でという話でしたよね、もう一生会えないと思っていたけど、おばあちゃんの最後の願いってことで、パパともおばあちゃんとも会えて。それに、パパの弟さんという人がいるんですが、疎遠だったのがまた再会してわだかまりが少しほどけたみたいだし…」。

「そうなのね」。

「それで、お母さんがかわいそうになってしまって。なんだか、かわいそうで…」。

「う~ん」。

「おばあちゃんと再会した話をしたときに、おばあちゃんは人生の最後に大仕事をしてくれたけど、今度は、私がこの大仕事をお母さんにする役目がいずれ来るって言ってくれてましたよね。その時は、もうお母さんと会いたくないって、もう私の人生を無茶苦茶にかき回されたくないって思ったんですけど…、どういう形になるかわからないですけど…、今は何ができるかはわからないんですけど、そういう役目があるんだろうなぁと」。

「うんうん」。

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