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サービスデザイナーに「ものづくり」は必要か? 

Pioneering Design Paths: デザインリーダーが明かす、キャリアの選択と挑戦の秘訣」というイベントに参加した(2023年8月29日)。

私は、川北奈津氏(株式会社モンスターラボ デザインラインVice Manager)、稲葉政文氏(日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社 UX/UIディレクター・マネージャ)とともに、ライトニングトークとパネルディスカッションに登壇した。

イベント全体の様子は別の記事※に譲るとして、ここではその後の懇親会について書く。(※2023年10月6日追記:本記事の最後にモンスターラボ様の記事へのリンクを設定しました。)


参加者の多くは20〜30代のデザインキャリアを持つ方々。UX/UIデザイナーやサービスデザイナーが多く、CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)や経営者も参加されていた。

ものづくりのスキルは必要か?

懇親会ではサービスデザイナーのキャリアについて相談を受けた。その中で「サービスデザイナーのキャリアにものづくりのスキルは必要か?」という質問を複数いただいた(私も含めた登壇者全員が、キャリアの中でものづくりを経験していた背景もあった)。

サービスデザイナーは、デザイン領域の中でもビジネスへの関与が強く、ものづくりのバックグラウンドを持たない方も活躍している。一方で デジタルサービスのUIや、ブランディングやプロモーションへの対応も必要であり、造形や設計に関わる仕事も多い。

対応する範囲が複雑なため、若手のサービスデザイナーはキャリア形成に対して迷いを感じている。ここでは、その一助となるような考えを書いていきたい。

ユーザー接点の見極め力

私は2012年ごろからサービスデザイナーとして活動している。約10年の間にサービスデザイナー像は緩やかに変化してきているが、変わらない点もある。

その一つに、ユーザー接点タッチポイントの見極め力がある。あるべき全体のユーザー体験の中で、個々のタッチポイントはどんな成果を果たすべきか、果たされているかを判断する力だ。

アプリやウェブサイトのUIでは、想定するユーザー行動と設計がマッチしているか。ペルソナから見て問題のない言葉遣いや表現になっているか。

プロモーションの表現では、ユーザーに与える認知・感情や、してほしい行動が意図通りになっているか。「認知」は、その企業やサービスが「何であるか」という像であり、「感情」は「頼もしい」「かっこいい」「正統的」というようなものである。

パンフレットなどページのあるものでは、盛り込まれる内容がユーザー視点でストーリーを持って過不足なく表現され、十分な理解へと繋がっているか。モノとして、企業・サービスとユーザーの間でポジティブな関係を作り出せるか、も判断が必要だ。

このような判断を横断的にできる能力が、サービスデザイナーには必要になる。

事業・社会・ユーザーの視点で要件を決める

加えて、各タッチポイントの成果や要件を決めることも重要だ。

とりわけ、事業性・社会性とユーザー価値の観点から要件を決めていくことはサービスデザイナーの責任になる。

カスタマージャーニーマップなどから、どのタッチポイントにどのような成果を設定し、それがどのような事業インパクトに紐づくのかを言語化し、制作や開発につなげ監督する。

この時に、例えばシステム開発における詳細な機能・非機能要件を決めるところまでは行かないことが多い。技術的・予算的・スケジュール的な視点を含めた開発要件定義は各プロフェッショナルに任せる形になる。

制作や開発の進行の要所で内容を確認し、顧客体験全体や事業や社会の観点からレビューし、重要な成果や要件を取りこぼさないように動いていく。

サービスデザイナーにものづくりのスキルがあると、当初から技術的制約や可能性を盛り込んだ会話ができるし、開発側とも踏み込んだ議論ができる(開発視点に寄り過ぎないようポジション設定も重要である)。

常にタッチポイントをイメージする

私の経験上、良いプロジェクトの条件の一つに、「サービスデザイナーを含めたメンバー全員が、タッチポイントのアウトプットイメージをプロジェクト初期段階からイメージできている」というものがある。それは個々人が抱く仮説であり、統一されたものである必要はない。もちろん仮説なので結果的に的外れでも良い。イメージしている、しようとしているという姿勢が大事だ。

あるプロジェクトのごく初期段階に行ったワークショップの後に、「みんなは、最終的なアウトプットイメージは見えた?」という問いをチームに投げかけたことがある。

するとメンバーから刺激的な意見が出てきて、仮説同士をぶつけ合うことで、今後検討すべき論点が明確になることがあった。

ゼロベースであっても、まだ調査をしてなくても、情報が少なくても、皆がアウトプットを妄想していること。しようとしていることはとても重要で、そこに正解不正解はない。

必要な段取りを踏んだある時に、突然アウトプットイメージが立ち現れるのではなく、検討開始の1日めから皆の頭の中にイメージがあって、プロジェクトが進むにつれて、どんどん精度が上がってくる

サービスデザイナーはこういうチームビルディングをすべきと私は考えている。当然、サービスデザイナー自身もタッチポイントのアウトプットイメージを率先して示す必要がある。

プロトタイピングの姿勢

サービスデザイナーは、本格的なものづくりのスキルはなくとも、絵や図といった視覚言語を使おうとする姿勢は不可欠である。カタチにし対話する作法とも言える。

サービスデザイナーはタッチポイントでの体験に重要性を置きながら事業を構想する役割であり、サービスの実像を常にイメージし集団を動かす存在でもある。

わたしは、コンセントのサービスデザインプロジェクトを長年観てきているが、「サービスデザイナーがカタチにすることでプロジェクトが飛躍的に進む」ことを何度も目撃してきたし、「サービスデザイナーがカタチにできないことで停滞する」現象も見てきた。

サービスデザイナーを成果視点でみるならば、カタチにする姿勢を持つことは必須である。プロジェクトの成功確率が高い。「視覚言語」と書いたように、カタチをつくる行為は言語」だ。言語の秀麗さよりも、言いたいことが伝わることが大事で、これは技術の多寡ではない。

「何かを伝えようとする姿勢」自体が、人間と人間のコミュニケーションを円滑にし促進させる(同時に好意ももたらす)。

デザイナーシップを称賛しあう

とはいえ、サービスデザイナーの中にはカタチにすることを苦手とする者もいる。これは技術というよりも「苦手意識」の話であることがほとんどだ。

これまでの「デザイン」は、「美しく機能するモノ」に意識を向けすぎていたのかもしれない。それが萎縮や遠慮の遠因になっているのかもしれない。スポーツマンシップならぬ、「デザイナーシップ」なるものを意識し、「手探りでも、つくってみた」ことに称賛を贈るような文化も必要だ。

「稚拙でも、つくってみたもの」が、新しい発見を生み、プロジェクトをドライブする。組織視点では「自分で構想しつくることの楽しさの原体験を早めに経験し、軽やかにつくる態度を醸成する必要もある。

そして、ものづくりスキルは必要か?

ここまでを端的にまとめると、

  • 手を動かさずとも、横断的にタッチポイントをディレクションできる

  • つくる姿勢を持ち、絵や図で集団をファシリテーションしたりプロトタイピングできる

がマスト項目であり、それ以上は、サービスデザイナーの個性の範囲で伸ばせれば良いものとも言える。

もちろん「ディレクションできる」ためには、具体的な業務の流れであったり制作上の要点を知っておく必要があるし、技術的文化的なトレンドも押さえる必要がある。このあたりを把握する日常動作は欠かせない。

自由度と俊敏性を上げる「ものづくり」スキル

余談にはなるが、私自身は最終完成レベルまで制作物を詰めることは少なくなった。プロジェクト責任者もしくはその監督者として動くことが増えてきたため、制作まで担うと全体の効率が下がったり、ポジションとしてコンフリクトが起こったりするからだ。

一方で、私一人だけで動く小規模プロジェクトでは、自分で最終的な制作も行う。「ものづくりスキルがあると、プロジェクトの自由度と俊敏性が格段に上がる。内部のコミュニケーションコストが下がるので経済性も高まる。サービスデザイナーの「ものづくり」キャリアの利点とも言える。

キャリア20年の視点から

サービスデザイナー自体のあり方も変化を続けているが、生活者と事業・社会を結ぶ横断的な視点で柔軟に立ち回る役割であることは、今後も変わりがない。分野横断的で総合的なロールなので、どんな経路を辿っても姿勢と努力さえあれば、優秀なサービスデザイナーになれる。

私は約8年間、グラフィックデザイン・エディトリアルデザインのキャリアを経た後に、サービスデザイナーになった。そしてすぐに、いわゆる「ビジネス知識への強い課題に直面した。

32〜34歳のころだった。
3年間と決めて、クリエイティブのことは忘れて「ビジネス」の勉強に専念した時期があった。経営戦略、事業戦略、企業会計、マーケティング、ブランディング、組織開発、人材開発など。ロジカルシンキングといったビジネスに必須の思考法もこのタイミングで学んだし、「いかにして仕事をつくるか」というセールスオペレーションにも必死にキャッチアップした。大きな組織を率いるタイミングであったため、リーダーシップについても深く学んだ。年間100冊ほどの書籍を、ノートを取りながら学生のように「学習」した(いわゆる「インプット」ではなく)。

ビジネスを理解すると、不思議とデザインに対する理解も深まるデザインの活用の幅も驚くほど広がる

3年という時間は不思議だ。企業で言うと中期経営計画。
人や集団が育ち変化が完成する時間軸として、なんらかの合理性を持つものなのだろう。

(参考)イベントで示した私自身のライフチャート


冒頭の画像はモンスターラボ様から提供を受けました。ありがとうございました。


2023年10月6日追記
イベント当日の様子は、Monstarlab Design Journal にて詳しく紹介されています。あわせて読んでいただけますと嬉しいです。



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