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デザインのキャリアのために、アサインをどう活かすか

デザイナーは実力の生き物。だから、一つひとつのプロジェクトで経験を重ね、なんとかなんとか実力を積み上げないと生きていけない。

今回のテーマは、キャリア形成を効果的に進めるためには、プロジェクトにどうアサインされたら良いか。

実のところ、自分のキャリアのためには、アサインされるのではなく、アサインする側になるのが一番。やっぱりそうです。成長機会を自分で作りコントロールできるから。

それはそうですが、今回はそうなる前の「アサインされる」ことを念頭に進めていきます。アサインに、無防備なのは、もったいない。


あなたと一緒に仕事がしたい

「誰でも良いのでデザイナーさん1人お願いします。」

こんなアサインに遭遇したらどうでしょうか。私なら嫌です。自分の能力や人格や成長のすべてが無記名の「デザイナーさん」に漂白される。自分の時間労働だけがパサパサと取引されていく。

このようなアサインは動機づけが難しい。成長にも良いものではありません。「誰でも良い」というのは誰がやっても同じような成果を期待すること。試行錯誤や工夫が思わずゆるんでしまいます。

せめて、「こんな仕事を、こんなレベルでできるデザイナーをアサインしたい」というものならば、自分がやる必然性も出てくる。でも、やっぱり一番は「あなたという人と仕事がしたいんです」。こんなアサインならば最高に腕がなるものです。

でもでも、そんなことを夢見て待っていても、最初からこんな素敵なラブコールは飛んでこない。「デザイナーさん誰でもいいので1人お願い」だなんて、相手のアサインの仕方が悪いのか。そんなことを思ってはいけません。それは自分の日ごろの行いの結果なのです。

あなたはどんなデザイナーですか?

そのためにはまず、社内営業。アピール。セルフブランディング。

やっぱりこれかと思うかもしれませんが、避けられない基本のキです。

なんだか「仕事くれ」と低姿勢のようで。「蹴落とせ、他人」とばかりに競争心丸出しのようで。もしくは「自分大好き、かまっておくれ」と言わんばかりに。そんなことを思うかもしれませんが、それこそ重大な勘違いです。

あなたのことは誰も知らない。あなたの存在は「デザイナーの人」くらいにしか知られていない。得意なことも、やりたいことも、何も分からないモノクロームな存在。そこから始めます。

デザイナーは常日ごろからどんなスキルがあってどんな仕事をしたいのかこれを周囲に広く伝え続けていないとただのデザイナーさんになってしまいます

自分の性質や意向を示さないと、自己表現しないと、あなたの成長に必要なプロジェクトを、あなたに向けて依頼することはできません。あなたへの無関心が襲いかかってくるだけです。

相手も「とりあえず、デザイナーさん一丁!」とアサインするしかない。あなたが自己表現しないばかりに「こんなデザイナーかな?」と思ってアサインしたら、全然違ったなんてことにもなります。それはもう、相手の仕事に不都合が生じるわけです。

社内営業が生み出す、仕事の調和

自分のことを周囲に伝える基本行動を怠ると、アサインする側も困ってしまいます。健全なアピールがないとアサインが適材適所にならない。みんなの仕事がちょっとずつずれていく。ボタンを掛け違えたままプロジェクトが進む。仕事の総和が豊かにならない。

「仕事くれ」でも、「蹴落とせ、他人」でも、「かまっておくれ」でもない。社内営業・アピール・セルフブランディングは、厚顔無恥でもなんでもない。周りの仕事をより良くするための利他的なアクション

こんな素敵なデザイナーとこんな仕事をつくっていこう。このデザイナーのこのスキルを活かしてこんな価値を生み出そう。この人と一緒に野望を企てよう。そんな、周囲の仕事が高まっていく期待感。高揚感。連帯感。

アサインする前から、こんな思いが生まれるよう動くことが必要です。相手の仕事がもっと創造的になる。きっと、こちらの成長を意図して、そっと相談を持ちかけてくれる人も出てくるはずです。

別に全員じゃなくていい。せめて、アサインする人、仕事をつくる人、意思決定する人。最初は、そういう人にだけにでも届けば良いのです。

まるでデザイナーはエイリアンズ

無関心どころか、業態や組織によっては、デザイナーは疎まれる存在だったりします。

デザイナーは要件を覆してくる。ユーザー視点だなんて正論を振りかざしてくる。ぶっちゃけそう思っている人もいるはずです。

そうでなくても、デザイナーが考えていることは分からない。デザイン領域が広がる中で、デザイナーがどんな職業であるか分かりづらい。利害関係や理解の濃淡によっては、デザイナーは組織にとっての異分子になりえる。まるでエイリアンズ。

そういう環境ならば、なおのこと、人当たりの良さやチームワークの上手さが重要になってきます。アサインでは能力と同じくらいやりやすさ」も重要になります。能力が似たようなデザイナーならば、必ず仕事しやすいデザイナーが選ばれる。それは事実として何度も見てきました。

日ごろから周囲と交流し、単純接触効果(会えば会うほど親密度が上がる効果)を上げておく。「やりやすさ」の助走をつけておくことが肝要です。誰だって意志疎通がスムーズで、感じ良い人と仕事したいはずです。

だってあなたの稼働が空いているから

ところで、あなたの仕事は何か月先まで埋まっているでしょうか。

もし1か月先の稼働が埋まっていないならば、あなたの上司はとりあえず仕事を充てて稼働を埋めようとするでしょう。極論すると仕事は何でもいい。誰かの手伝いでもいい。デザイナーが稼働せずアイドルしてしまうのは、管理上の失態だからです。

もし、自分にとって良い仕事がしたい。良い仕事にアサインされたいと思うならば、2か月先の稼働を意識し自分でコントロールしなければいけません。組織によっては2か月先でも不十分。3か月とした方が良い場合もあるでしょう。

2か月先の稼働が空いているならば。いや、その前の段階から、社内の仕事を探りに行く。どんなプロジェクトが動いているか、動きそうか、聞きに行く。もしくは、こちらからプロジェクトの提案に動いていく。そんなアクションが必要です。

成長できる仕事にアサインされたいならば、自分の時間を自分で支配する姿勢を持つべきです。そうしないと、成長に無関係な作業が流れ弾のように降り注いできます。

輝く仕事よりも、輝く人

デザイナーは、キラキラした仕事に吸い寄せられる。ステキなアウトプットが生まれそうな要件。多くの人に見られる、使ってもらえる対象物。映える実績。そんなプロジェクトにアサインされたいと思ってしまいます。

それは否定しません。自分も大いに吸い寄せられていましたから。例えば、派手な仕事からネームバリューを積み上げていく。それによって営業しなくとも仕事がくるようになる。誰かがお膳立てしてくれるようになる。やりたい方向に仕事を持っていける。

それもひとつの合理性ですが、それ一本に頼るのは、持続的なキャリア形成としては不確実性が高すぎると見ています。

キャリア形成を優位に進めるアサインという意味では、派手な仕事よりも「誰と仕事するかに着目する方が有効だと思います。確実なスキルアップが見込めるからです。

「誰と仕事するか」は2つあります。1つはデザインチームの誰かということです。この人と仕事すると伸びる。育て方が上手。そんな評判のデザイナーが、あなたの組織に1人や2人はいないでしょうか。その人のことです。

もう1つ。もっと重要なのがデザインチーム外の人です。事業会社であればデザイン組織に依頼する人、協働する他部署の人。デザインエージェンシーであればクライアントにあたる人です。

自分よりもすごいと思える人とプロジェクトを協働してその人を感動させてみたいそのすごい人と比肩する存在になりたい。こんな感情が湧く人と仕事をすると大きく成長します。

自分を外側から相対化してくれる存在

そんな人は、デザインの外側から自分の力を相対化してくれる。乗り越えるべき課題を見える化してくれる。仕事をするだけで実力を引き上げるための目標が浮き彫りになってくるような存在です。

30代前半くらいまでは相手の方がキャリアが上であることが多いもの。こちらが頑張って食らいついていく図にもなる。鋭い意見、優れた考察、熱い意志。こういったものにビシビシ触れることになります。

依頼者であれば、ただすごいと尊敬するだけでなく、そんなすごい人を納得させないといけない。その壁を乗り越えなければいけません。

依頼者であれば、変な忖度もない。こちらを無理に褒める義理もない。そういう人が自分の前に立ち客観的な目を向けてくれる。濁りのない鏡のような存在。

私はデザイナー歴20年ですが、これまで私を一番育ててくれたのは、クライアントです。あの人に認められたい。この人に信頼されたい。この人をギャフンと言わせたい。その感情が一番の成長のドライバーでした。

上司の指導、先輩の助言、同期との学び、書籍、セミナー、ウェブコンテンツ。成長に関係したものは山ほどありますが、一番はやはりクライアントの存在です。あのクライアントとの、あの仕事。あの時のあの指摘。

アサインされる際には、仕事の内容だけでなく。どんな人と仕事するかも目を光らせると良いでしょう。

ポジショニングは慎重に

さて、そのプロジェクトにアサインされることで、具体的にどんなスキルが磨かれるのか。この問いを考え続けることも重要です。

やりたいことできることやるべきこと。キャリア形成の基本ですが、デザイナーは「やりたいこと」をとかく先行しがちです。それはそれで問題ないこと。その探究がデザインキャリアの本質でもありますから。

でも、同時にスキルのポジショニングにも注意を払う必要があります。スキルには、技術的な練度を自分がコントロールして積み上げていく側面と、市場価値といったアンコントローラブルで流動的な側面の2つがあります。

市場価値というのは、そのものずばり技術の価格です。社会ニーズが高く、身につけている人が少ないスキルは市場価値が高く、逆に、陳腐化していたり徐々にニーズが下がっていくようなスキルは価格も低いもの。生成AIなどのテクノロジーの変化で暴落することもありえます。金額は表立って見えるものではありませんが、冷淡な見方をあえてすると、人材市場の価値として現れるものです。

アサインの側面から見たら、「やりたいこと」に向けて技術的練度を深めていきながらも、市場価値に適応する、もしくは先取りしてくような方向も視野に入れなければいけません。先行的・先進的なプロジェクト。自分がビハインドしている技術をリカバリーできるプロジェクト。そんなプロジェクトに取り組むのです。

キャリア形成は一朝一夕には行きません。一つひとつのプロジェクトを実践しながらスキルの練度を高めると同時に自分のスキルが市場適合するように微調整をはかっていく必要があります。市場価値の高いスキルにポジション取りし続けるような感覚。そんなアサインをされるように動いていきます。

20代のうちには、この意識付けの効果はあまり表面化しません。30代以降にライフステージが切り替わったときに、皮肉にも問題が噴出するものです。人によっては大切な「守るべきもの」ができた時に、自分のスキルと市場価値のギャップが大きく開いてしまっている事態にもなりえます。勉強が必要な時に可処分時間もない。時間がない。

年齢は残酷です。年齢を重ねるとアサインされづらくなる。プロジェクト責任者の目線では、自分より年上に指示出しするのは気後れするもの。無意識に若い方向に良いアサインが流れていきます。そうなる前に、アサインされる側でなく、アサインする側に回るのか。組織内で市場価値の高い唯一無二な存在になっているのか。ポジショニングは慎重に、です。

組織がリスクを取らせてくれる

市場適合にするにあたっては、自分ができないことにも少しずつ挑戦する必要があります。そして、そのリスクを依頼者側に押し付けるのはおかしな話ですので、その挑戦をフォローする施策が組織的に充てられることがほとんどです。プロセスやアウトプットのレビューの機会があったり、監督者が品質管理に入ってくれたり、などです。

このあたりは、事業会社やデザイン会社に所属するデザイナーの最大の特権。フリーランスのデザイナーにはないものです。

自分の技術獲得と市場適合のためのリスクテイクに対してそれを支え自分を伸ばしてくれる仕組みがある。最大限活かさない手はありません。「会社がリスクを取らせてくれる」と見て、のびのびとチャレンジした方が得です。

同時に、前述のような「自分を知ってもらう」活動を通して、自分のリスクテイクを支えてくれる存在を組織内に多方面に持つとよいでしょう。私の周囲を見渡しても、大きく成長している人は、自分を支えてくれる存在を何人か持っている人がほとんどです。上司だけではなく、組織のあちらこちらに協力者がいるイメージ。

仕組みに浸かりすぎない自律性

ここまで、アサインされることについて書いていきました。

  • 周囲に自分を知ってもらうことで、成長に効果的なアサインを呼び込む。

  • 稼働予定を徹底管理して、先手先手で良いアサインを呼び込む。

  • 自分を相対化できる、外部の「すごい人」と対面するアサインを選ぶ。

  • 技術の深耕と市場適合を並行して叶えられるようにアサインされる。

  • 自分の挑戦をリスクヘッジしてくれる仕組みや人を活用する。

要約するとこんな内容でした。

私が活動するデザイン会社コンセントでは、アサイン業務については綿密な整備を敷いています。

たとえば、機会の公平性を保つために、社内営業だけでアサインが決まらないように案件情報を開いています。プロジェクト参加の挙手と挑戦の機会を開いています。メンバー個人の目標をアサイン担当者の間で共有し、「やりたいこと」と接続できるアサインをしています。稼働予定を管理し組織の生産性が保たれるアサインをしています。

こんなことを細かく仕組み化しています。(組織視点でのアサインの紹介は記事文末にリンクがあります)

今回の記事にある「社内営業をして良い仕事を引き込む」「稼働を先読みして自分で動く」というようなこととは、やや矛盾するようなこともあります。

組織としては、全体の力が向上するような策を、最大公約数的な対象に向けて取り組みを進めていくものです。しかしながら、個人のキャリアの視点ではそれをハックし利用し最大公約数を乗り越えた個としての成長を自らの主体性と責任で作り上げなければいけません

私は、この記事の一つ前に「デザイン組織の最高のアサイン」という記事を出しました。組織視点の記事です。今回は個人視点でのアサインの話、あえて多少の矛盾があるものとして描きました。

組織と個人の間の、双方の視点から生まれる亀裂を書くことで、デザイン組織の理想像を考えられるのではないか。設計され運用されるだけの硬質な組織像でなく、人が動き、考え、個々の視点で未来を志向する人間の集団としての像です。

アサインは社会につながる

デザイナーのアサイン。適材適所のアサインは、チームを良くする。プロジェクトを良くする。成果を良くする。産業にも社会にも重要な価値を生む。

一人ひとりのデザイナーがアサインに意識的でないと、無数の小さな矛盾が積み重なっていく。社会のデザインの成果が乱されていく。大げさではなく、そう思っています。

キャリアについては、いろんな人がいて、いろんな事を言うものです。「お金がすべてだぜ」と言い切れないからこそ、デザイナーをしているのだと思います。だから迷いもあるわけです。

今回の話は、デザイナーとして一発打ち上げるぜ、という話ではなく、私のような普通のデザイナーが社会に有意義な成果をずっとずっと出し続けるためのキャリアの話です。大多数のデザイナーの成果がずっとずっと積層し、社会が世界がちょっとでも良くなるように。

この記事が役に立てば何よりです。



※今回は個人のキャリア形成を軸においたアサインについて記事にしました。下記では組織能力を最大化させるアサインについて考えを書いています。今回の記事の前半となる記事。合わせて読んでいただけると幸いです。


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