見出し画像

西国三十三所番外 温泉寺 城崎温泉守護のお寺

今となっては記憶も朧げだが、かつて政府がGoToキャンペーンを実施していた頃、西国三十三所第二十八番札所の成相寺(なりあいじ)と第二十九番札所の松尾寺(まつのおでら)に一泊二日でお参りに行く計画を立てていた。遠方であるのと、特に松尾寺はアクセスがあまり良くないため、一度目の参拝はバスツアーを利用したが、このところは人数が集まらず、不催行が続いていた。私が愛してやまない、お寺も、その周辺のお土産物屋さんも、もちろん旅行会社も鉄道会社も、危機に瀕している。平日の、空いている時間を狙っての一人旅。キャンペーンに、一度くらいは乗っかりたい。
天橋立(あまのはしだて)と西舞鶴、東舞鶴どこに宿泊するか迷い、本数の少ない小浜(おばま)線へのアクセスを考えて東舞鶴に泊まることにした。元々安いビジネスホテルが三十五パーセント引きでさらに安くなった。
このとき、兵庫県・城崎(きのさき)の温泉寺(おんせんじ)で、西国三十三所第八番札所・奈良の長谷寺(はせでら)と同じ霊木で造られた御本尊の観音様が三十三年に一度の特別公開になっていることを思い出した。
もう一泊足して、城崎温泉から日本海側を攻めよう。

城崎は数年前に友人と一泊旅行をしたことがある。いつものオタク女子会メンバーでの三人旅であった。特急こうのとりでJR大阪駅から約二時間半。久々の長時間乗車でしたたかに乗り物酔いをし、温泉街の薬局に駆け込んでアネロンニスキャップを買った。このような場所で手に入るとは思わなかったので非常に助かった。
外湯巡りが目的だったので温泉寺には行かず、多客で入れないところもあったが外湯巡りをし、旅館でのご飯の美味しさに度肝を抜かれた。筆舌に尽くしがたく、皆一様に語彙力を失い、我々のマスコットであるところのゆりあ嬢に至っては「ナニコレ メッチャ オイシイ」しか言葉を知らないロボットに成り果てた。普段我々が食べていたものは何だったのかと見失うほどで、後にも先にもこんなに美味しいご飯を食べたことがない。白米ひとつをとっても、豊岡自慢のコウノトリ米であったが、何もつけないツヤツヤの白いご飯自体が甘みを持ち、私の口内に感動をもたらした。朝食のポンかけご飯(TKG。卵かけご飯のこと。方言だと思われる)も極上であった。
そんな美しい思い出の地、城崎である(相変わらず食べ物の思い出が多い)。

楽さと安さを取って、高速バスを利用した。大阪を出発し、新大阪、千里桃山台などを経て、播但線(ばんたんせん)あたりの高速道路を走り、城崎温泉駅前に降り立った。
一度は来たことのある、見覚えのある風景。さくさく歩いて真っ直ぐ温泉寺の薬師堂へと向かう。大きな山門が印象的であった。
続いて、ロープウェイに乗り本堂へ。他に参拝客はおらず、ゆっくりとご住職の説明を聞きながら、本坊から渡り廊下を通って本堂へ。内陣から、本日のメインである大きな十一面観音様をじっくりと眺めた。素朴な雰囲気だが流麗な、美しい観音様であった。檜(ひのき)の一木造(いちぼくづくり)で、表情は穏やかなのにノミ跡から力強さも感じさせる。祈りを捧げ、一眼成就とあったのでお願い事をひとつした。慌ただしい日常では味わえない、静かな祈りのひとときであった。
かつてはまず温泉寺にお参りして入湯作法を授かり、湯杓を持って温泉に浸かるならわしであった。今はお参りせずに入浴を楽しむ人が多い。本堂に開山の道智(どうち)上人像もあり、感謝を表す。
本堂より奥の、宝物館になっている城崎町美術館も拝観した。このあたりで発掘された仏像がたくさん展示されていた。
さらにロープウェイで奥之院に行った。かにの彫りの入った「かに塚」で、たくさんの観光客に美味しく召し上がられてしまったかに様たちに感謝を捧げた。
ロープウェイ山上駅から、円山川に向かって細長く伸びる温泉街を眼下に見ながら下山した。城崎特有のおもしろい地形である。

荷物を置きに旅館へ向かう。
価格と立地で宿泊先を選んだが、行ってみると私には分不相応な立派な構えの旅館で、通された部屋は一人どころか三、四人でも持て余しそうな広さであった。GoToトラベルキャンペーンの恩恵で宿泊費が抑えられ、目算を誤った結果の出来事であった。

忙しく外湯巡りをしてスタンプラリー特典の長寿箸をいただき、広い部屋のすみっこで城崎ジェラートを練りながら翌日の旅の計画を練った。

続く。

================

末代山 温泉寺

読み:まつだいさん おんせんじ

住所:兵庫県 豊岡市(とよおかし) 城崎町湯島(きのさきちょうゆしま)985-2

公共交通機関でのアクセス:
JR山陰本線 城崎温泉駅より
徒歩15分

入山料:400円(本堂・城崎町美術館)
参拝時間:9:00〜16:30

宗派:真言宗
本尊:十一面観世音菩薩

主な行事:4月23日〜4月24日 開山忌

創建:738年(天平10年)
開基:道智上人

札所:
西国薬師四十九霊場 第29番札所
西国三十三観音霊場 番外札所
但馬西国三十三箇所 第33番札所

※西国三十三所札所会が正式に番外札所としているのは、花山院 菩提寺、華頂山 元慶寺、豊山 法起院の三箇寺である。


※上記は2020年10月時点の情報です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?