松本次郎『いちげき』を読んだ
松本次郎の漫画『いちげき』を読んだ。
ドラマ版は未視聴。
とても面白かった。
あらすじ
舞台は大政奉還と戊辰戦争の間の江戸。
薩摩藩は、戦争を起こして江戸幕府を完全に滅ぼしたいと考えている。
そこで相楽総三や伊牟田尚平らを使って江戸の治安を乱し、幕府を挑発する。いわゆる「御用盗」。
他方、江戸幕府は、治安悪化の裏に薩摩藩の存在があることを当然把握しているものの、主戦派と穏健派に分かれていて意見を統一することができない。
勝海舟は、戦争を回避しつつ幕府を終焉させる方法を考えている。
正規の幕府軍を使って御用盗を取り締まれば、薩摩藩の目論見どおり、戦争が勃発してしまう。
そこで、勝海舟は新選組から教育役を呼び、優れた身体能力を持つ百姓を超短期間で訓練し、秘密の対御用盗襲撃部隊として「一撃必殺隊」を組織する。対テロ組織用の闇討ち部隊である。
本作は、そんな一撃必殺隊の顛末を描いている。
魅力
一撃必殺隊の隊員は任務達成後には武士になれると約束されている。
しかし、訓練期間は超短期間である上、訓練内容には防御が全く含まれておらず、最初から使い捨ての部隊として計画されている。
そもそも隊員の上司たちは、武士の時代が続くとは考えていない。
一撃必殺隊と敵対している薩摩御用盗も、挑発のために江戸の治安を乱す後ろ暗い存在なので、やはり使い捨て。敵対していて立場は全く違うのに、一撃必殺隊側と全く同じ発言をすることもある。
本作は、使い捨ての存在同士が争いながら、時代のうねりの中で夢を見たりもがき苦しんだりする人生ドラマが魅力。
作中では日本刀が「簡単に壊れて捨てられる武器」として描写されていて、登場人物たちの運命と重ねられている。
というわけで、設定や展開は明るいとはいえないのだけど、アクションシーンは(グロテスクな描写も多いが)しっかり派手で見応えがあるし、映画的なメリハリが効いていてひたすら凄い。
漫画的なコメディシーンも、いい感じに読者の力を抜いてくれる。
いやあ、凄い漫画だった。
全7巻で読みやすいのも良い。
原作小説
そのまま永井義男の原作小説『幕末一撃必殺隊』も読んだ。
キャラクター設定も展開も原作小説と漫画版はかなり違う。
原作小説の方が時代の流れの中の一撃必殺隊を俯瞰的に見ているような印象。
漫画版は個々のキャラクターを深掘りして群像劇っぽくしている。
どちらも面白い。