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シャーロッシくんの事例簿:その7
社労士会労働紛争解決センタ-は全国に46ヶ所あり、職場の個別紛争の解決のために、あっせんを行っています。
あっせんがどのように行われ解決に至っているのかを事例としてご紹介させていただきます(個人情報保護の観点から内容を一部変更しています)。
7回目は、労災隠しによる退職に対して、慰謝料と離職理由の書き換えを求めた事例です。
◆あっせんの概要
申立人は、所定労働時間5時間の有期のアルバイトとして勤務し、搬送業務を担当していた。その後、申立人は次の更新から所定労働時間が8時間となり、時間外労働もするようになった。ある時、申立人は仕事中、誤って右手薬指を挟まれ負傷してしまった。
申立人は、上司に労災の申請をしたいと話したが、アルバイトに労災はないと言われた。しかし自分で調べて監督署で申請書類を入手し、会社の人事部経由で監督署に労災申請書類を提出した。
その後、正社員への転換を打診されたが、契約期間の途中での退職を決意し、人事部から渡された退職理由が『一身上の都合』と書かれている退職願にサインした。そのときに申立人は被申立人に対し、ケガで仕事ができなくなったために退職することになったとして、損害賠償金等〇〇万円を求める文書を提出した。
◆紛争の背景
・申立人は、退職願にサインした際に、アルバイトにも年休があることを初めて聞いた。
・被申立人の代理人弁護士との話し合いで、賃金6か月分相当額を請求したが、最大でも賃金2か月分相当額しか応じられないと言われた。
・話し合いがまとまらず、申立人が自宅に引きこもり、憔悴している様子を心配した家族が、社労士に相談したところ、紛争解決センターを利用することを勧められ、後遺症とアルバイトであることを理由として労災を申請させなかったことへの精神的苦痛に対する慰謝料として金○○万円の補償と、離職理由を『労災による就労不能での退職』に変更するように被申立人に求めるべくあっせんを申立てた。
◆申立人の主張
・退職前数カ月は労働時間も業務量も正社員と変わらず、年休についても取れると知らず、休むことができなかった。
・申立人は、正社員に労災を適用していることを知っており、自分のケガの際に申し出たが、アルバイトには労災はないと言われ病院での治療が遅れた。
・勤務を命じられ無理に仕事を続けた。このような状況で運搬業務はできないと思い、人事部に当該負傷が原因で退職することを申し出た。
・次の契更新で正社員転換すると言われたが、現在の仕事以外はやりたくなかったのでその場で断り、人事部から渡された退職願に記入して提出した。
・解決への話し合いについても賃金2か月分相当額の支払いまでしか応じられないと言われ、この対応には怒りを覚えている。
・離職票には自己都合退職と記載されているが、労災による就労不能とした内容に変え、しっかりと給付を受けられるようにしてもらいたい。
◆被申立人の主張
・労災を隠そうとしたわけではなく、申立人から申出があってから申請手続きを行い、監督署には死傷病報告書も提出している。
・申立人は、ケガをしてから病院に通院したのは2日のみで仕事を休んでいないため、労災保険から休業補償は出ていない。また、申立人は負傷した後も休憩時間にバスケットボールを行っており、本当に痛みや腫れがあるのか疑問がある。
・申立人が退職を申し出た際に、『正社員として働いてみないか。』と打診をしたものの、申立人はその場で固辞し、4日後に退職を申し出ている。このことから、退職は、熟慮して自分で出した結論だと認識しているので、離職理由の変更には応じられない。
・申立人に支払う解決金は、賃金2か月分相当額が限度であると考える。
◆あっせんの内容
・あっせん委員が申立人の主治医の診断書を確認すると、就労不能とは記載されておらず、診断書上は休業の必要はないと判断せざるを得なかった。そのためあっせん委員は、申立人に対して、このままでは離職理由を就労不能へ変更する根拠がないことを話した。また仮に離職理由を就労不能にした場合は、雇用保険の基本手当の受給要件である『働く能力』がないと判断される可能性があり、現在の受給がなくなる可能性が生じることを説明した。さらに、被申立人から正社員登用を打診され、これを申立人が自らの意思で断っている事実が確認でき、この経緯からも自己都合退職とされる可能性が高いことを説明した。
・被申立人は、当初は解決金について譲歩する姿勢を見せなかった。しかし、あっせん委員からの労災や年休に関する上司の説明に問題があることや、手続きの遅延、安全配慮義務に問題があるのではとの指摘を受け、譲歩の姿勢を見せた。また、申立人が失業中であり、精神的にも経済的にも余裕がない状態であること等の説明を受け、最終的には賃金3か月分相当額の解決金として支払うことに合意し解決に至った。
◆あっせんの結果
・申立人は、自己都合退職したと判断し、離職理由の変更は行わない。
・被申立人は本件解決金(賃金3か月分相当額)及び未払の年休消化中の賃金として申立人に対し金○○万円を支払う。
・合意文書が交わされ、和解が成立した。