シャーロッシくんの事例簿 その11
社労士会労働紛争解決センタ-は全国に46ヶ所あり、職場の個別紛争の解決のために、あっせんを行っています。
センタ-で受理したあっせん件数は平成30年3月には千件を超えました。あっせんがどのように行われ解決に至っているのかを具体的に知りたいとの声にお応えして、実際に社労士会労働紛争センタ-で解決してきた事例をご紹介して行くことになりました。(個人情報保護の観点から内容を一部変更しています。)
11回目は、社会保険未加入労働者から社会保険の遡及加入を求められた事例です。
◆あっせんの概要
申立人(事業主)X(以下「X」という。)は、書店を営んでおり、非申立人(労働者)Y(以下「Y」という。)を時給制の営業職として約10年間雇用していた。Yの所定労働時間は8時間であり、土曜、日曜、祝日が所定の休みであった。Xは、Yについて、入社時から雇用保険には加入手続きをしていたものの、健康保険及び厚生年金(以下「社保」という。)については、加入手続きを行っていなかった。Yは、社保の未加入等の問題からXへの不信感を募らせ、当該書店を退職することにした。そして、Yは、退職後、社会保険未加入に伴う不利益の補償を求めるべくXに対し内容証明郵便を郵送した。これを受けたXは、Yとの間の円満な解決を求めるべくあっせんを申立てた。
◆紛争の背景
・Xは、法人のため社保の適用事業所であり、Yの労働時間からすれば、社保の加入手続きをする必要があった。しかし、Xは、時給制の労働者であるYに社保の加入は不要だと認識し、手続きをしていなかった。
◆申立人の主張
・Yは、時給制によるパート労働者であったため、社保の加入は不要と考えていた。これらの問題については、専門家である社労士に解決に向けたアドバイスをお願いしたいと考えている。
◆被申立人の主張
・Xに、勤務を始めた約10年前に遡及して社保の加入手続きを行うことを求める。もし、それができないのであれば、減額された年金額について、65歳から80歳までの金額の補償を求めたいと考えている。
◆あっせんの内容
・あっせん委員は、Xに対し、社保の加入要件について、正社員の1週間の所定労働時間及び1ヵ月の所定労働日数の4分の3以上働くアルバイトやパート労働者も、雇用契約期間が2ヵ月を超えたり、2ヵ月を超える見込みがある場合には加入する義務があることを説明した。
・Xは、あっせん委員に対して、Yの主張を受け入れて遡って社保を加入させたいと話したが、あっせん委員は、社保の遡及加入は原則2年であることを伝え、また社保料の事業主負担分について説明した。
・あっせん委員は、Yに対しても社保の遡及加入が原則2年であることや、保険料の自己負担額について、おおよその額を説明した。更に、あっせん委員は、Yの主張に基づき、約10年間社保に未加入だった場合に、65歳から80歳まで減額される可能性のある年金額についても試算し、Yに伝えた。その上で、損害賠償は実際に生じた損害が対象とされることが多いため、将来予想される金額について賠償を求めても、Yが求める80歳までの補償は難しいとの意見を述べた。
・Xから全て含めた解決金として、5ヵ月分の賃金を支払い、これで解決したいとの希望があり、これをYに伝えることとなった。
・Yは、80歳までの15年分の金額に大きく不足していることに不満を述べたため、あっせん委員が再度、Xへその考えを伝えることになった。
・あっせん委員が、Xとの面談でYの意向を伝えると「駆け引きなしで6ヵ月の賃金を支払うことで解決願いたい。これが限界です。」との意思が示され、最終的にYもこれを受け入れたため、和解成立となった。
◆あっせんの結果
以下の内容で、和解契約が成立した。
・Xは、本件解決金として、Yに対し金○○万円支払う。
・XとYの間には、本和解契約に定める他に何らの債権債務がないことを相互に確認する。
・XとYは、本和解契約の存在及び内容について、第三者に口外しないことを相互に確認する。
あっせんによる解決をご希望の方は!
社労士会労働紛争解決センタ-大阪
☎ 06-4800-8188 〒530-0043 大阪市北区天満2-1-30
社労士会労働紛争解決センターHP