ジョルダン標準形(Jordan標準形)の求め方



準備

Jordan標準形を求める上で必要な知識を足早に導入します.詳細は線型代数のテキストなどを参照してください.

  • $${\mathbb{K}}$$は体($${\mathbb{R}}$$または$${\mathbb{C}}$$としても大丈夫です),

  • $${{\bf{M}}_n({\mathbb{K}})}$$は$${\mathbb{K}}$$の元を成分にもつ$${n}$$次正方行列全体の集合とします.

  • $${E_n}$$で$${n}$$次単位行列とします.

定義.(固有値・固有ベクトル)
$${A\in{{\bf{M}}_n({\mathbb{K}})}}$$とする.$${v\in {\mathbb{K}}^n\setminus\{0\}}$$で$${Av ={\lambda}v}$$をみたす$${\lambda\in {\mathbb{K}}}$$を$${A}$$の固有値,$${v}$$を固有値$${\lambda}$$に属する固有ベクトルという.

定義.(固有空間)
$${A\in {\bf{M}}_n({\mathbb{K}})}$$の固有値$${\lambda}$$に対し

$${W(\lambda;A)=\{v\in {\mathbb{K}}^n:Av={\lambda}v\} \\=\{v\in {\mathbb{K}}^n:(A-\lambda E_n)v=0\} \\=\text{Ker}(A-{\lambda}E_n)}$$

を$${A}$$の固有値$${\lambda}$$の固有空間という(線形変換$${T_A:{\mathbb{K}}^n\to {\mathbb{K}}^n;v\mapsto Av}$$で$${{\text{Ker}}(T_A-{\lambda}{\text{id}}_{{\mathbb{K}}^n})={\text{Ker}}(T_{A-{\lambda}E_n})}$$とすべきところをここでは$${{\text{Ker}}(A-{\lambda}E_n)}$$と略記しました,以下同様).

どの行列において固有値$${\lambda}$$の固有空間を考えているか混乱が生じない場合,$${W(\lambda;A)}$$を$${W(\lambda)}$$と略記します.

定義.(固有多項式・固有方程式)
$${A\in {\bf{M}}_n({\mathbb{K}})}$$のとき

$${\phi_A(x)=\text{det}(A-xE_n)\in {\mathbb{K}}[x]}$$

を$${A}$$の固有多項式,$${\phi_A(x)=0}$$を固有方程式という(固有値を求めることと固有方程式を解くことは同値になります).

ここまでで述べたことは,行列の対角化を求めるまでで導入されたことでした.しかし,行列の対角化が可能であるというのは特殊な状況であってそれは一概に$${\text{dim}_{\mathbb{K}}W(\lambda)=}$$(固有値$${\lambda}$$の重複度)が成り立つとは限らないことにあるのでした(他の考え方もあると思います).そこでうまく足りない分の固有ベクトルを補う固有ベクトルのようなものをもってくることがJordan標準形を求めるときのミソになります.それが次の広義固有空間を導入することで解決します.

定義.(広義固有空間)
$${A\in {\bf{M}}_n({\mathbb{K}})}$$のとき

$${W_j(\lambda)=\{v\in {\mathbb{K}}^n:(A-{\lambda}E_n)^jv=0\} \\={\text{Ker}}(A-{\lambda}E_n)^j}$$

を$${A}$$の固有値$${\lambda}$$の広義固有空間という(注意というほどではないですが,$${W(\lambda)=W_1(\lambda)}$$です).

定理. $${A\in {\bf{M}}_n({\mathbb{K}})}$$に対し

$${v\in W_j(\lambda) \Longrightarrow (A-{\lambda}E_n)v\in W_{j-1}(\lambda)}$$

が成り立つ.

この記事では,理屈を述べることが目的ではなくとりあえずJordan標準形を導出することに重きをおいているので,サクッと具体例を見ていきましょう.

具体例

$${A=\begin{bmatrix}1 & 0 & 0 \\ -1 & 2 & 4 \\ 0 & 0 & 2\end{bmatrix}}$$のJordan標準形を求めよう.

Step1: 固有値を求める.

$${A}$$の固有値を求めることと,$${A}$$の固有方程式を解くことは同値なので$${A}$$の固有方程式を解きます.

$${\phi_A(x) = \begin{vmatrix}1-x & 0 & 0 \\ -1 & 2-x & 4 \\ 0 & 0 & 2-x\end{vmatrix} =(1-x)(2-x)^2 =0}$$

から,$${A}$$の固有値は$${1}$$と$${2}$$(重複度2)になります.

Step2: (広義)固有空間を求める.

Step1で固有値を求めた結果,固有値が全て異なっていないので現段階では$${A}$$が対角化可能かどうかわかりません.もう少し言及するとここでは,$${\text{dim}_{\mathbb{R}}W_1(2)=2}$$(固有値$${2}$$の重複度)となれば$${A}$$は対角化可能となります.そうはさておき,$${A}$$の各固有値に対応する固有空間を求めてみましょう.

$${W_1(1)={\text{Ker}}(A-E_3) \\={\text{Ker}}\begin{bmatrix} 0 & 0 & 0 \\ -1 & 1 & 4 \\ 0 & 0 & 1 \end{bmatrix}={\text{Ker}}\begin{bmatrix} 1 & -1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}=\mathbb{R}\begin{bmatrix}1 \\ 1 \\ 0\end{bmatrix},}$$

$${W_1(2)={\text{Ker}}(A-2E_3) \\ ={\text{Ker}}\begin{bmatrix} -1 & 0 & 0 \\ -1 & 0 & 4 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}={\text{Ker}}\begin{bmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}=\mathbb{R}\begin{bmatrix}0 \\ 1 \\ 0\end{bmatrix}.}$$

ここで,$${{\text{dim}_{\mathbb{R}}W_1(2)}=1\neq 2}$$(固有値$${2}$$の重複度)となるので,$${A}$$は対角化不可能であることがわかります.なので固有値$${2}$$の広義固有空間を求めてみましょう.

$${W_2(2)={\text{Ker}}(A-2E_3)^2 \\ ={\text{Ker}}\begin{bmatrix} -1 & 0 & 0 \\ -1 & 0 & 4 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}^2={\text{Ker}}\begin{bmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}={\text{Ker}}\begin{bmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}\\=\mathbb{R}\begin{bmatrix}0 \\ 1 \\ 0\end{bmatrix}\oplus\mathbb{R}\begin{bmatrix}0 \\ 0 \\ 1\end{bmatrix}=W_1(2)\oplus\mathbb{R}\begin{bmatrix}0 \\ 0 \\ 1\end{bmatrix}.}$$

ここまででやっとJordan標準形を導く変換行列を与える準備ができました.

Step3: 変換行列を決定する.

Step2で求めた各固有値の(広義)固有空間(の基底)から

$${p_1=\begin{bmatrix}1 \\ 1 \\ 0\end{bmatrix}\in W_1(1),\\ p_2=\begin{bmatrix}0 \\ 0 \\ 1\end{bmatrix}\in W_2(2)\setminus W_1(2),\\ p_3=(A-2E_3)p_2=\begin{bmatrix}0 \\ 4 \\ 0\end{bmatrix}\in W_1(2)}$$

とおくと,固有値・固有ベクトルの定義から

$${Ap_1=p_1, Ap_2=2p_2+p_3, Ap_3=2p_3}$$

となるので,変換行列$${P}$$を$${P=\begin{bmatrix}p_1,p_3,p_2\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}1 & 0 & 0\\ 1 & 4 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{bmatrix}}$$とすれば,

$${AP=A[p_1,p_3,p_2]=[Ap_1,Ap_3,Ap_2]\\=[p_1,2p_3,p_3+2p_2]=[p_1,p_3,p_2]\begin{bmatrix}1 & 0 & 0\\ 0 & 2 &1\\ 0 & 0 & 2\end{bmatrix}}$$

となり,この両辺に左から$${P^{-1}}$$を掛ければ求めたいJordan標準形

$$
P^{-1}AP=\begin{bmatrix}1 & 0 & 0\\ 0 & 2 &1\\ 0 & 0 & 2\end{bmatrix}
$$

が得られます.

最後に

実際のところは,Jordan標準形を求めるだけならば(広義)固有空間の次元さえわかれば求まります.また,この方法は行列のサイズが大きくなればなるほど計算量が指数函数的に増加するので,手計算でゴリゴリやるなら4次か5次くらいまででしょうか.とりあえずどうにかしてJordan標準形を求めないといけない!という人は参考にしてみてください.

どこに需要があるのかわかりませんが,どちらかというとnoteでTeXが使えるようになったので,どのような感じだろうかと試しに書いてみたという側面のほうが大きいです.夜の勢いで書いたので間違いがあると思うのでご注意ください(あれば教えて下さい).

ここまで読んでいただきありがとうございました.

補足

  • $${Ap_2=2p_2+p_3}$$は$${p_3=(A-2E_3)p_2=Ap_2-2p_2}$$から来ています.

  • $${\mathbb{K}}$$-線型空間$${V}$$に対し,一次独立なベクトルの組$${v_1,v_2,\ldots,v_n\in V}$$を用いて,$${{\mathbb{K}}v_1\oplus {\mathbb{K}}v_2\oplus\cdots\oplus {\mathbb{K}}v_n}$$と書くと,$${v_1,v_2,\ldots,v_n}$$で生成される$${\mathbb{K}}$$-線型空間を表しています.すなわち$${{\text{Span}}_{\mathbb{K}}(v_1,v_2,\ldots,v_n)}$$や$${\langle v_1,v_2,\ldots,v_n\rangle_{\mathbb{K}}}$$と同義です.

  • 具体例では,$${A\in {\bf{M}}_3(\mathbb{R})}$$なので$${{\mathbb{K}}=\mathbb{R}}$$としましたがもちろん$${{\mathbb{K}}=\mathbb{C}}$$としても問題ありません.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?