Vol.5「精進落とし」
今回は食事にまつわるお話です。
お通夜のあとの食事を「通夜ぶるまい」、葬儀のあとの食事を「精進落とし」「精進明け」、その食事を「精進料理」と言いますが、
そもそも精進料理って、何?
はい、精進(しょうじん)しています!
「皆さん、日々精進してますか!?」
と聞かれたら、
「はい、精進しています!」
と答えてください。
一つのことに集中して、
一生懸命に努力しています!
…と、アピールできる魔法の言葉です。
先輩や上司に誉められたあとにも、舞い上がらずに「日々、精進していく所存です!!」と答えると、「ムム、こいつ、できるな」なんて、思われる、かも?
「精進」にはこんな意味があります。
「そのことだけに集中し、努力していくこと」
他にも、
「ひたすら仏道修行にはげむこと」
「心身を清め、行いをつつしむこと」
「肉食せず、菜食すること」
…料理っぽいキーワードがありましたね。
「精進料理」とは、肉類を使わない料理のことです。
精進料理とは
「肉や魚を使わない」とはつまり、
生き物の生命を断ってはならない
不殺生戒(ふせっしょうかい)
仏教で僧侶が守るべき戒律に則り、野菜、豆、穀類を中心に工夫して調理した料理が「精進料理」です。
精進料理の代表的な食材といえば、豆腐や湯葉、鳥の雁(がん)の肉に似せて作ったがんもどき。野菜の天ぷらは「精進揚げ」と呼ばれます。
「精進料理ダイエット」なんて言葉があるくらい精進料理は健康的でヘルシーな食事です。
ただし、浄土真宗には精進料理はありません。なぜなら、肉食を禁じていないからです。
浄土真宗の話はまたの機会にするとして、
食事もまた僧侶の修行のひとつでした。不殺生戒はとくに重たい戒律で、信者もこれを守らなければなりません。とくに通夜や葬儀、先祖の忌日などを「精進日(しょうじんび)」と定めて肉食を断ち、野菜中心の食事をしていました。
で、「精進落とし」って、なに?
家庭に不幸があった親族は四十九日(忌中)の間、精進料理を食べて過ごしていたそうです。四十九日の忌明けに精進料理から通常の食事に戻すことを「精進落とし」、または「精進明け」「精進あげ」とも言いました。
やがて四十九日から七日目(初七日)に早めて「精進落とし」をするようになり、現在では初七日法要を葬儀当日に行うことが多いので、葬儀の後の食事を精進落としと呼ぶようになりました。
先ほども言いましたが、「精進落とし」とは通常の食事に戻すという意味なので、その時に必ずしも本当の精進料理(お肉のない料理)を食べる必要はないのです。
神道の直会(なおらい)
神道では、通夜祭や
帰家祭(きかさい)の時に食事を用意します。
これを「直会(なおらい)」と言います。
直会とは本来、お供えしていた神饌(しんせん)を下げ、参列者でいただく行事です。
下げられた供物も直会と呼びます。
直会の語源は「直り合い」とも言われ、祭事を終えて日常に直ることを意味しました。
神道のお供え物のことを「神饌物(しんせんもの)」といいます。
神饌を供えることを「献撰(けんせん)」、下げることを「撤饌(てっせん)」と言います。
キリスト教の茶話会
キリスト教では食事を振る舞う決まりはありません。「茶話会(さわかい)形式」と呼ばれるお茶やお菓子程度の軽い食事会を開くことがあります。
関東のお清め、愛知の出立ち
関東では、通夜ぶるまいのことを「お清め」と言います。死の穢(けが)れを清めるための食事を意味します。
愛知県など、地方によっては葬儀の前(朝)に
「出立(でたち)弁当」を食べる風習があります。
大阪では火葬からお骨上げの間に精進落としをしますが、他の地域では骨上げ後や還骨法要・初七日法要の後に精進落としをするのが一般的です。
浄土真宗では精進落としのことを「お斎(とき)」と言います。「お斎」は法事や法要のあとの食事全般をさすこともあります。
精進落としの席で、乾杯の代わりに「献杯(けんぱい)」をすることがあります。乾杯とは違い、故人を偲ぶのが目的なので杯を高く掲げて打ち合わせたりはしません。唱和も静かに行い、拍手はしません。
まとめ
・精進落としは忌明けに食べる食事
・神道は直会(なおらい)
・精進しましょう
イラスト 木村