ポートメッセ名古屋のダイヤモンドダスト

3/18のbe there名古屋公演に参加してきた。
ライブ全般について書こうとすると、恐らくとてもとても長くなってしまうので、この日のベスト演目に絞って書いてみたい。
素晴らしすぎたパフォーマンスをより鮮明に記憶に刻むためにも、あの日目撃した光景を必死に思い出しながら文字に残していく。

この日のベスト曲。
そうスノースマイルだ。

前曲Gravityの終盤でメインステージからセンターステージ(aka.恥ずかし島)へとことこと進んでいく藤原さん。
突端のスタンドマイク前へ到達し、素早い動作でマイクの下のエフェクターを踏みGravityをしまう。
一転して静寂に包まれるライブ会場。
1万5千人を沸かせるも静まらせるも一挙手一投足で事足りてしまう。
薄暗い場内、観客の真ん中で一人立つ藤原さんをじっと見つめる。
短く息を整えてからギターを抱え込むように背中を丸め、肺に空気を満たしていく様子が窺える。
間もなく次の曲が始まる兆しに触れ、期待感がポートメッセ名古屋に充満していく。
その人が生み出す空気の振動を心待ちにしている3万個の目と耳が固唾を飲み込んでいる。
マイクが藤原さんが息を吐いた音を拾う。
直後にこれまで何百回と聞いた歌詞が耳に届いた。

冬が寒くって本当によかった

???
アカペラじゃん!イントロは!?

熟知している歌詞が、声だけで紡がれていく。
素晴らしく心地良い。ただ耳心地の良さをアカペラの衝撃が凌ぐ。
待ってくれ藤原さん、視界の外からフックを叩き込まれて、脳を揺さぶる演出に情報処理が追いついていないんです。
勿論インターバルなどあるはずもなく、センターステージで歌う藤原さんの声に、メインステージ上の3人の演奏が合流する。

耳馴染みのあるスノースマイルだ。
まだ動揺はあったもののここで一息つけた。自分まだやれます。

ただ合流したのはギター、ベース、ドラムだけではない。
照明による光の演出が加わった。

青白い光がメインステージ後方上空から3人を照らすものだから、チャマも升さんも増川さんもシルエットとしてしか見えない。
ということは…?
今は藤原さんだけを見せる時間なのだ、そういう意図だろうと私は解釈し、この後は藤原さんを目でずっと追っていた。
センターステージでギターを掻き鳴らし声を張り上げ歌う藤原さん。
金剛力士像のように2本の足でどっしりと立っているようにも、自宅キッチンで飄々とフライパンを振っているようにも見える。
歌が好きなんだ、歌うことが大好きなんだと伝わってくるような、力強くもリラックスした姿勢と声だった。
勝手にそんなことを感じている間にも、青と白のレーザーのようないくつもの線状の光が縦横無尽に走り回り、ポートメッセ名古屋内の空気を網の目状に細かく細かく切り裂いていく。
かと思えばいつの間に現れたのか、藤原さんの頭上にあたる天井部分に吊るされたミラーボールからも光が照射されはじめる。
インデペンデンスディで言えば間もなく木っ端微塵になるホワイトハウスとUFOの位置関係だ。
光を射出させているのか反射させているのかはたまたその両方か、ミラーボールは場内の至る所に無数の白い穴を開けていく。
白い穴は開いたと思った瞬間にはもう塞がっていた。

ライブが始まる前、友人と丁度スノースマイルについて話していた。
この唄は恋人との別れではなく嫁いだ娘の幼い頃を懐かしむ父親の心情を綴った唄である、という目から鱗の新解釈を先日目にしたぞという報告をしていたのだった。
先ほど「熟知している歌詞」と書いたが、この新解釈に触れた時、本当に言葉だけしか知らないんだなぁと痛感したと同時に、これだから藤原さんの書く歌詞はステキで困るよなとにやにやしてしまった。

話をライブに戻す。
開演前に上記の新解釈の話をしたせいで、壁や天井、ステージ、客席、我々の体に一瞬だけ覗いて立ち消えていく白い穴が、いもしない娘との思い出を、つなぎようもない娘の手の温もりを捏造する。
白い穴の中のifの未来を想像させる。
そんな未来をより強く欲するよう仕向けてくる。

ライブ中にそんなことを考えている自分と、そんなことを考えている自分に呆れている自分がいる。ライブ中だぞ、と。

ライブに集中しているのか集中していないのかわからない状態のまま藤原さんを眺めていると、彼が天を指差すのが見えた。
見てみろよ雪降ってんぜ、とでも言うような仕草だった。
会場中に舞う白い光は雪というよりは最早ダイヤモンドダストだ。
歌うために肺に溜め込まれていた空気が、経験していない思い出が、今日この日にここにいられる喜びが、ミラーボールの自転により煌めくダイヤモンドダストとなって私たちを包んでいる。

私の席はメインステージに向かって左側の階段席だった。
数段上っただけの座席はセンターステージに立つメンバーの視線と丁度同じくらいの高さになる。
だから天を指差す藤原さんの指もはっきりと見えたし、ダイヤモンドダストの中で凛と歌う藤原さんを中心に青と白の光が逆巻いている光景が、まるでスノードームのように綺麗で、今も瞼に焼き付いている。
とても幸せな空間だった。

そして最後、ラララパートだ。
ハミングと呼ぶには鋭さがあり、絶唱と呼ぶには悲壮さがない。
太陽や飴玉の唄、話がしたいよと近い雰囲気の歌唱方法(いずれもライブver。でも全然違うのかもしれない)だったあのパートもまた出色で、この日のスノースマイルはつくづく特別づくめだった。

また曲の途中、すらっと伸びた足をコミカルに振ってセンターステージを駆け回る姿もまた眼福だった。
そのちょっと前の圧倒的なかっこよさと欽ちゃん走りのギャップよ。

こうしてこの日のスノースマイルは、アカペラという助走と、照明というロイター板による大跳躍で私史上最高打点を弾き出し、いつか来てほしいと願っている未来を先取りし、その未来を実現させたいと強く感じさせた。
近い将来本当に、待望の子供ができて、その子が女の子とわかったら、私はきっとこの日のスノースマイルを思い返す。
そして離れて暮らすことになる日に備え、ポケットに溢れるほどの思い出を溜め込むべく娘を溺愛し、いつか嫌われ、涙を堪えて送り出し、妻と手をつなぎながら、この日見たスノードームについて呆れられるまで熱弁したい。

最後にもうひとつだけ。
この日はオーロラアーク以来のライブ参加だった。
つまり活動再開したチャマを初めて見た日だった。
天体観測の最中に、チャマを見て急に目頭が熱くなった。
解散という責任の取り方をしないでくれて、続けるという決断をしてくれて、ありがとうBUMP OF CHICKEN。
もう人生の半分以上を一緒に過ごしてしまっていますので、引き続き伴奏してください。
よろしくお願いします。

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