「玉子焼き」は奥の深いお料理です
みなさん、こんにちは。神楽坂の「御料理 山さき」の山﨑美香です。
お店では、鍋の前に「お通し」を何品かお出ししています。季節の食材を使ったものが中心ですが、そんな中でも一年を通じて定番となっているのが玉子焼きです。修業時代を含めれば、もう30年以上も毎日のように焼き続けているなんて、我ながら感慨深いものがあります(笑)。
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世の中の和食店や居酒屋では「だし巻き玉子」がすっかり主流になっていますから、当店のように「甘い玉子焼き」は、今や珍しい存在になってしまったかもしれませんね。
材料は、だし汁とお酒、そして上白糖と濃口醤油です。一回焼くために、玉子をなんと10個(しかもL玉!)も使っているんです。鍋の重さも加えれば、全部で2キロ近くあるはずです。この鍋を片手で扱いながら焼くわけですから、結構な力仕事であることはご想像いただけるのではないでしょうか。
上手に焼くには、いくつかのコツがあります。まずは冷蔵庫から出してすぐではなく、室温に戻した玉子を使うこと。そして、合わせ汁もきちんと温めることで、卵液を人肌くらいに保つこと。このように温度に気をつけることで、ふっくらと焼き上がります。
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それから、焼くときに油をたっぷりと使うことも大切です。流し込んだ卵液はなるべく動かさずに、中火でじっくりと火を通していきます。私の場合、玉子10個分もの卵液ですが、流し込むのはたった2回だけです。
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最初に半分強の卵液を鍋に入れて、しばらく待ちます。鍋肌に触れたところから玉子が膨らんでいきますが、それを鍋の奥の方に寄せ、まだ固まっていない液をその下に移動させていきます。
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しばらくして固まってきたら、ここで初めて裏返します。また油をひいて、残った卵液を流し入れ、同様にじっくり焼き上げていくのです。表面に美味しそうな焦げができれば完成です。
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私の理想は、冷ましてから切ったときに、玉子からおつゆが一滴も出ないことです。それは材料がきちんと一体化して、美味しさが玉子焼きの中に封じ込められたということなんですね。こうしてできた玉子焼きからは、甘みだけではなく、うまみもきちんと感じられます。
お店では焼き上げてから、一旦冷ましたものをお出ししていますが、焼き立ての状態はまるでスフレみたいにふわふわです。これももちろん美味しくて、以前の常連さんの中には「焼き立てを出してくれ」なんておっしゃる方もいました。
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合わせ汁の味や温度、鍋の温度、流し込む卵液の量など、あらゆるポイントが上手く噛み合った時に、本当に納得のいく玉子焼きが出来上がります。毎日のように焼くことで、私自身のコンディションもわかってしまいます。そういう意味でも、玉子焼きは見た目以上に、とても奥の深いお料理の一つだと思っています。
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【御料理 山さき】
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お鍋や料理については、以前出版した「四季の鍋と江戸料理」にも詳しく載っています。