スポーツの醍醐味は、苦しい瞬間にこそ
クライシスと呼べる、バルサの現在
今のこの状況を、それなりに飄々と楽しんでいると言ったら、クレ失格だと言われるかもしれない。
2021年9月24日現在、FCバルセロナを取り巻く空気は、それはそれは重苦しいものになっている。
「どん底」と言っていいのか、この先さらに暗い底があるのかもわからない、絶望的な状況だ。
バルトメウ前会長の目を覆いたくなる放漫経営と、図ったように襲いかかってきたコロナによって、バルセロナの財政はクラブ史上稀に見る危機に瀕している。
その影響は限りなく大きく、この夏の市場は、バルサにとって何よりも失ってはならないメッシを放出せざるを得なくなった。
彼に代わる新たな選手(そんな選手存在しないけれど)を獲得するどころか、サラリーキャップをクリアするために戦力外選手の放出と年俸ダウンの交渉に奔走し、フリーで獲得した数人の選手を登録するのが精一杯。
さらに、メッシの抜けたチームを引っ張っていくことが期待されたグリーズマンも、移籍市場最終日に放出。
残された選手の中でも、主力としての活躍が期待されるアグエロ、デンベレ、バルサの未来として全クレが期待を注ぐアンスも負傷から戻っておらず、満足なスカッドを組めるはずもない状態で、シーズン序盤を迎えている。
ただでさえ厳しい陣容での戦いを強いられる中、「選手が足りないから」では済まされない内容の試合を繰り返し、ラ・リーガは5試合が終わって2勝分け。
間に戦ったCL初戦、カンプノウでのバイエルン戦は、当たり前のように0-3で散った。
当然ながらクーマン監督に批判は集まり、昨シーズンのラポルタ会長就任から見え隠れしていた火種は完全に顕在化。
もはやクラブと監督との関係修復は不可能に見えるところまできた。
このままではさらに悪い状況になっていくことは誰の目にも明らかだ。
後任とお金(違約金)の問題さえ解決すれば、クーマンの解任は間違いないだろうが、それでも次の監督がこのチーム状況を数ヶ月で改善させられる保証はない。
さすがにこうなってしまうと、クライシスと言ってもいい状況。
少なくとも、片足は突っ込んでいるだろう。
そして、誰もが思い浮かべ、比較するのは「暗黒時代」。
ガスパールが会長に就任し、フィーゴが宿敵マドリーに去り、優勝争いどころかCL争いを繰り広げていたあの時代だ。
クレ歴19年目でも、まだ「新米クレ」
そんな、出口の見えない状況の中、日々暗い気持ちで過ごしているクレも多いことだろう。
ただ、根っからのクレである僕自身は、自分でも意外なほど落ち着いて今の状況を見られているし、ほんの少し楽しみさえ見出している。
僕は、バルサを応援するようになって約18年が経過した。
バルサの試合を見始めたのは、中学2年生の頃、03-04シーズンからだった。
ラポルタ会長の第一次政権が始まり、ライカールトを監督に据え、PSGから太陽王ロナウジーニョがやってきた、あのシーズン。
冬の移籍市場でダービッツが加入したことを契機に、先述の「暗黒時代」を抜け出した、あのシーズンである。
僕がバルサを(最初のきっかけは本当になんでもないことだったけれど)応援し始めた時点で、すでにシーズンは始まっていた。
だから、僕自身は一応「暗黒時代を経験したクレ」と言えなくもないのだけれど、そもそもどんなチームなのかもよくわかっていないままあっという間に冬を迎えたので、僕のバルサの記憶は、見るもの全てを楽しませてくれるような笑顔でボールを自在に操るロナウジーニョと、彼に引っ張られてどんどん順位を上げていく姿で始まったようなものだった。
当時隆盛を極めていたバレンシアに次ぐ2位まで順位を上げて03-04シーズンをフィニッシュしたバルサは、翌シーズンに大幅に戦力を入れ替えて、ロナウジーニョを中心とした新しい時代を築いていく。
3年ほどでライカールトバルサとロナウジーニョの勢いも落ちてくるが、次に控えていたのがメッシであり、ペップの時代。
そこからの栄光は誰もが知る通りである。
この18年間、ライカールト末期や、マルティーノ時代など、要所要所に苦しい時代はあったものの、平均すれば2シーズンに1回以上のペースでリーガは獲っていたし、CLの優勝も何度も見届けることができた。
そういう意味で、非常に幸せなファン生活を送らせてもらったことは間違いない。
ただ、気づけば18年になるにもかかわらず、気持ち的にはまだまだ「新米ファン」である。
当然ながら、現地で40年も50年もバルサを間近で見続けているカタランの皆さんから見ればぺーぺーだし、日本でも20年以上追い続けている先輩がいるのも確かだけれど、ペップ時代から、あるいはメッシやイニエスタを見て、さらにはMSNに魅了されてバルサを応援するようになったというファンもたくさんいるのだ。
そう思うと、「ベテラン」とまでは言えないにしても、少なくとも日本国内では「中堅」くらいは名乗っても良さそうなものであろう。
それでも「まだまだ」と感じてしまうのは、結局のところ「暗黒時代」をまともに経験していないのが大きいのではないかと思うのだ。
苦しい時期を共に乗り越えてこそ、仲間としての絆が生まれる。
そんな使い古された方程式を、今さら掲げる気もないけれど、やっぱり事あるごとに「暗黒時代に比べれば今なんてマシ」と笑うクレの先輩を見ると、自分はまだ日の当たるバルサしか知らないからなぁと感じるのは確か。
だからこそ、この苦しい時期を、他のクレの皆さんと共に(といってもほとんどネット上で見ている人たちだけど)、あーでもないこーでもないと言いながら過ごせることが、少しだけ嬉しかったりするのだ。
ピンチに立たされない主人公はいない
どんな物語でも、主人公は必ずピンチに陥る。
最初から順風満帆で、何の苦労もなくエンディングを迎えたら、ストーリーとして面白くもなんともない。
「盛り上がる」場面がくるのは、その前に「どん底」があるからだ。
強かった主人公が、強敵にやられて挫折を味わって、それでも努力して最後は勝利を掴み取る。
そんなN字カーブの展開は、ド「少年ジャンプ」的な王道だけれど、やっぱり最高に気持ちがいいからこそ王道なのだ。
僕が見てきたバルサの歴史は、文字通り栄光の時代が長くて、ときどきは落ちることもあったけれど、全然小さいN字だった。
そんな時代を経て、僕が見てきた18年間の中では、たぶん最悪の状況にあるんじゃないかと思っている(昨シーズンの夏も大概だったけど、一応盛り返してコパは獲ったので)。
逆にいうと、ここから上がっていく展開こそ、僕が今までに体験したことのない、最高に楽しいストーリーになるはずなのだ。
05-06シーズン、べレッチの決勝ゴールでつかみ取ったCLは、もちろん嬉しかったけれど、その喜びは暗黒時代をまともに経験したクレには遠く及ばなかったはず。
そんな思いがあるからこそ、苦しい時期でも好きなチームを応援し続けられる。
もしかしたら思った以上に時間がかかる可能性もあるけれど、それはそれで乗り越えたときの喜びが大きくなっていいかもしれない。(いや、一刻も早く抜け出してほしいけど)
一応暗黒時代をかじったクレとして、ペップ時代からファンになったクレの皆さんに偉そうに言えることはひとつ。
いつか再び来るバルサの栄光を何倍も楽しむために、苦しむバルサを真っ向から応援しよう。
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