アーレンシンドローム
今回は【光】に対して過敏性があるために、一見するとディスレクシアと混同されがちですがそのメカニズムが違うアーレンシンドロームについてご紹介しようと思います。
アーレンシンドロームはまだ比較的新しい病態であり詳しい研究が進んでおらず、何をもってアーレンシンドロームと見なすかすらも難しい所であります。この記事では簡単ではありますがその概要や症状、一般の眼科でできる事について書いていこうと思います!
<概要>
アーレンシンドロームは他にもScotopic Sensitive Syndrome(SSS)やMeares-Irlen Syndrome(ミアーズ・アーレンシンドローム)、Visual Stress(VD)とも呼ばれる病態です。ここではアーレンシンドロームと言う呼び方で統一して書いていきます。
アーレンシンドロームは視知覚の障害であり、蛍光灯や太陽光などの光に対する過敏性や印刷物の文字がゆがむ、あるいは動いて見える、踊って見えるなどの症状があり、羞明に起因する二次障害として頭痛や眼精疲労を示すとされ、有色フィルムや有色レンズを使用することで改善される(Irlen, 2005)とされています。
有色フィルム、有色レンズとは一般的な色付きのクリアファイルみたいなものやカラーレンズと解釈して良さそうです。
<症状>
大枠としてはLDの中の一種、ディスレクシアと似通っていますが、読字に困難が生じるメカニズムは異なり別個の障害として研究が進められています。
具体的には
その症状は人によって様々です。詳しい見え方は下記のURLを参照下さい。
主に【光】に対して過敏さが原因となり、読みの困難以外にも光が異常に眩しく感じたり目が疲れやすかったりといった症状も出ます。
<診断>
日本で確定診断を行えるのは筑波大学心理・発達教育相談室のみです。
事前申し込み前に眼科や児童精神科等で両眼視機能や眼球運動、眼疾患、視覚認知のスクリーニングを受けてから日程調整をして筑波大学にて2回のアーレンシンドロームについてのスクリーニング検査を受けます。
2回目がアーレンシンドロームの本検査とでも呼べる内容です。詳しい検査項目は不明ですが、下記のURLから国際アーレンセンターのセルフチェックのページに飛べます。恐らくこれを元に行っていると思われます。
そう、とてもとても長いです…そもそもページにLong Self-Test って記載があるのです…これをやり遂げるには大体1時間以上かかるそうです。
ともあります。後述しますが検査を受ける年齢層が比較的若くても集中力や体力は相当削られそうです。日本人向けの、例えばMNREADやDEMを応用した検査が確立されるといいと感じます。
<視機能について>
色覚、近見視力、両眼視を検査した研究があります。
・色覚
とあり、
を指摘しています。
ただ、この研究での色覚は石原式色覚検査表の12課題とあるので石原式Ⅱを用いているものと思われます。よってここでの結果が即ち色覚異常が多いと結論付けるのは難しいと思いました。
・近見視力
とあります。
ここでは近見視力0.6以下を問題ありと判断しています。しかし、これも使用したのが新標準近距離視力表です。
検査対象は学齢期の子どもと言う点を考えると字詰まりの影響も無くはないのでは?と疑問に思いました。ただ、近見視力の低下はこれからのICT教育を考えると、光の過敏性とも相まってアーレンシンドロームの子どもへの支援の1つとして覚えておくべきポイントかもしれません。
・立体視
これはバタフライステレオテストを用いて視差100"以上に答えられなかったら異常としています。しかし、またまた疑問点が…眼位検査の有無は記載がないので果たして検査対象の全員がortho若しくはphoriaなのか?と言う単純な疑問です。もしかしたら斜視も紛れ込んでたり、間欠性の子どももいたかもしれません。
<有病率>
欧米では小児で22%~33% (Jeanes et al., 1997 ; Scott et al.,2002;Wikins et al.,1996)成人ではイギリスで38% (Evans& Florence, 2002)日本では6%(川端ら、2011)とされています。かなり幅の広い数値で、しかも日本では小児のデータがありません。それについて次項で考察します。
<ぼくなりに思うこと>
しつこい様ですがアーレンシンドロームの症状はディスレクシアと似通っています。
しかし光の過敏性から生じた読みの困難であり、字が踊ってたり揺れてたり波打ってたりして、薄い色の着いたフィルムや眼鏡レンズで改善するとあります。
でもそれって表現するの難しくない!?
そこそこ高学年になってくれば自分の言葉で言い表す事は出来るかもしれませんが、低年齢で、それこそ先天性だとしたらどうでしょう?
子ども自身が生まれた時からそのように見えていたら他の子と自分の見え方の違いに気がつきにくいですよね?また、認知が広がっていないが故に大人も存在を知らないことが多く、子どもの何気ないその困難さを逃してしまいませんか?
さらに言うと子どもはバカじゃないです。とても賢いので、自分で色つきの下敷きを重ねて読んだり等の工夫は行えます。その為学習面での困難さは表面化し難いとも想像できます。
そんな理由があって子供の有病率がデータとして上がってきてないのではないでしょうか?
<眼科でできること>
もし読みの困難さが目立つ子どもが来院されたら、まずは視力、屈折、眼位、眼球運動、立体視、さらに既報にある様に近見視力もチェックします。その上で読みの困難がアーレンシンドローム特有の文字の動きや眩しさなのか、それとも読み飛ばし等のディスレクシアなのかを鑑別します。鑑別には先述のMNREADやDEMがあれば良いですが、無い施設も多い(少なくともぼくの勤務先には無いです…)かと思いますので子どもの自覚を引き出す声掛けが重要だと感じます。
眩しがりが強い場合は間欠性外斜視との鑑別も必要かとも思います。
これに関しては
との報告もあります。
しかしこの論文では8歳女児を対象にしており、遮光レンズの装用により読みが改善したとありますが、
ともあります。
なお、
です。
とあります。
これを参考に各色のクリアファイルを用意しておき、実際の文字が書かれた教科書等に乗せてみて読みが改善するかを試してもいいかもしれません。
<最後に>
今回はディスレクシアに関連してアーレンシンドロームという比較的新しい病態について書いてみました。その症状の出方や検査方法、日本での研究機関の少なさ故に本邦の小児での研究が進んでいない現状です。
最近ではASDとの関連との研究『LD研究2023.32巻4号 自閉スペクトラム症併存の有無によるアーレンシンドロームの感覚的特徴の違いについて』がされてきていますが、まだまだ明らかになっていることは少ない印象です。
まずは疾患の概要を知ること、そこから先入観に囚われずに鑑別すること、それから適切な支援を受けられる場への情報提供をする事。どんな眼科疾患でもそうですが、これに尽きるかと思いました。
アーレンシンドロームについて詳しく知りたい方がいらしたら下記の成書がオススメです。
今回は長くなりました💦
発達障害とは少し違いますが、被ってる部分もあるので被らない様に書きました。
また今後も継続して何か書いてみたいと思うので宜しくお願いします🙇♂️
ではまた👻