『イワノキツネ』№11
キツネの言うとおり、玄関前のお賽銭箱を夜も出しっぱなしにしておくと、朝にはいくらかのお金が入っていた。不思議なもので、神託が当たった人に石を渡すと、あげるというのにお賽銭箱にお金を入れてゆく。その上、石を渡した相談者がしばらく経ってまた倉庫へやってきて、賽銭箱にお金を入れるのだった。
キツネは静かに尻尾を揺らしている。猫さんは、人間とは奇妙な習性を持つものだと感心していると、チョビヒゲ猫が走って帰ってきた。
「まずいことになった」
猫さんが聞く間もなく、近所で防災倉庫の噂を聞きつけたおえらいさんが、抜き打ちで倉庫へ視察にやって来たのだった。チョビヒゲ猫は大狐を隠す事も出来ず、おえらいさんは初めて噂の大狐と対面することになった。
「これは…」
チョビヒゲ猫がなんとか取り繕う理由を考えていると、おえらいさんは首を傾げる。
「岩?」
猫さんとチョビヒゲ猫がキツネを見ると、さっきまで悠々と尻尾を揺らしていた大狐は、完全なる白い岩と化していた。おえらいさんが触ってみても、キツネはピクリとも動かなかった。
「…そ、そうなんです。これがご利益のあるお岩だそうで…」
チョビヒゲ猫がすかさず説明する。
「ある日突然倉庫の前に置かれていました」
猫さんも猫さんなりにおえらいさんに伝える。
「これを拝みに来てるのか…」
おえらいさんは腕組みをして、顎をさすりながら倉庫を眺める。そしてとうとうキツネの棚を見つけてしまう。
「お前達はこの岩にお供物までしていたのか?」
チョビヒゲ猫と猫さんはしかたなく頷く。
「うぅむ…」
2匹はこの倉庫から追い出される事を覚悟する。おえらいさんは倉庫内をくまなく点検してまわり、25の棚が見つかるのも時間の問題だった。
「なんだこのダンボールは」
おえらいさんは、チョビヒゲ猫のストレス解消で生じた膨大なダンボール片を見つけると、しぶしぶ片付け始めた。その隙に、猫さん達は25の棚にすっ飛んで行く。猫さんの記憶では、棚にあった25個の石はすべて相談者さんにお渡ししたはずなのに、なぜか1番目と2番目の棚に、ひときわ白くてすべすべした石が2つだけ残っていた。
集めたダンボールを抱えたおえらいさんが棚を通る前に、すかさず1番目の石を猫さんが、2番目の石をチョビヒゲ猫が握りしめて石を隠した。