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『聞こえない声』No.1

足湯が大盛況で、毎日それなりに忙しい猫さんは、正直その生活に嫌気がさしていた。生真面目なチョビヒゲ猫は毎日に張り合いが出て、メキメキ元気を取り戻したが、猫さんは疲れていた。

猫さんは、自分のペースで起きて、自分のペースで食事をし、自分のペースで昼寝をしたい。足湯の開く時間は決まっていて、その時間までに会館の色々なことも済ませねばならなかった。

会館のメンバーも足湯の運営に協力しているが、それは人間の都合というもので、濡れるのが嫌いな猫さんは、人間が入る足湯という施設が、猫にはとても縁遠いことに気がついていた。

思えば猫さんは、自治会館に住んでから、ずっと人間のお手伝いばかりして、猫達が集う地域の集会も、たまに開かれる猫踊りの行事にも全く参加していなかった。

猫の割に社会性のあるチョビヒゲ猫は、今日も元気に足湯へ向かったが、猫さんは猫本来の本能が恋しくなり、その日は足湯に行くことを拒んだ。チョビヒゲ猫は特に気にしなかったが、猫さんはなんだか悪いことをしているような、モヤモヤした気持ちに苛まれ、本能を゙取り戻すどころか、逆に落ち着かなくなってしまった。

気晴らしに会館のお庭へ出ると、空気が澄み切っていた。ゴロンと横になると、青空が見えて、太陽で暖まった芝生が気持ち良かった。
猫さんは、太陽の暖かさを体いっぱいに感じると、自然と眠くなってきた。

そのまま静かに目を閉じると、木々が揺れる音や、虫の声、鳥のさえずりや人間達の話し声、風が通り抜ける音が聞こえた。ウトウトと眠りにつこうとした瞬間、どこからともなく聞こえる不思議な声に気がついた。猫さんはハッとすると、夢だったのか、その声は聞こえなくなった。

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