『イワノキツネ』№10
猫さんが買い出しから帰宅して、倉庫の玄関扉を開けると、キツネは九尾の大狐一匹に戻っていた。ちょうど25人目の相談者が相談を終えた頃だった。
こういう变化に免疫がついた猫さんは、さして驚かなかったが、せっかく軌道に乗ってきた商売をどうしようかと思った。そんな心配をよそに、キツネは虚ろげに話しだす。
「…もうじき相談者達が再び訪れます…」
猫さんはいつものように食料を棚に置くと、25体の小ギツネが入っていた棚のそれぞれに、見たことのない文字が刻まれた白い小石が置いてある。
「…おそらく2種類の感情を持って現れましょう…
どちらの方にも…その石を1つ差し上げてください…」
猫さんは白くてすべすべな小石を触りたい気持ちをグッと抑える。
「タダであげちゃうのですか?」
「…はい…」
日々の食料調達を担う猫さんは、少しでもキツネの価値と行動をお金に変えたかったが、キツネは"そういうことではない"と譲らない。猫さんはブツブツ文句を言いながら、新たに作ったキツネの棚と備蓄の棚に、荒っぽく食料をしまう。
ほどなくして、倉庫の扉をドンドンと叩く音がする。何やらすごい剣幕で倉庫に入ってきたのは、8番目に相談した商店街のおやっさんだった。
「キツネの神託なぞ全然当たらなかったぞ!」
キツネは自分の9本の尻尾をフサフサと揺らす。猫さんはキツネに言われた通り、8番目の棚に置いてある小石を恐る恐る相談者に渡す。大狐は尻尾を振りながらゆっくりと口を開く。
「…その石はあなたの御守りです…願いを込めて、自分の好きな色で染めてください…」
猫さんもわからないが、とりあえずうなずく。
「今度は石コロを売りつけるのか!」
大狐の目は完全に座っている。
「…その石は差し上げます…御守りですから…」
猫さんも必死でうなずく。
「くれるのか?それなら…」
「…石には日々生贄をお供えください…」
「い、いけにえ?」
「そうです…四足の動物などがよろしいかと…」
「おお御神酒やお米のことです!あ!や八百八さんでお盆にかかごで売ってるおお野菜的な!」
「ごご利益にはし信じる力もひ必要です!」
猫さんが慌ててフォローすると、8番目の相談者は一応納得して帰っていった。猫さんは小ギツネ達が大狐に戻ると、途端に扱いにくくなることを思い出し、痛感する。とはいえ、その後も大狐の言うとおり、次々に相談者達が結果報告に倉庫へとやって来た。