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『イワノキツネ』第2部 №18

朝になり、2匹と小野さんは、特に収穫もないまま自治会館へと帰ることにした。

途中オオギツネの故郷、地獄谷を上空から覗くと、忌まわしいあのトラロープは外してあった。小野さんは旅に夢中で、県に働きかけることを忘れていたが、何か変化があったのだろう。岩は割れたままだが、周辺の立入禁止は解除されていた。

オオギツネは、とある所まで来ると突然ピタリと止まり、嫌な予感がするので、近くのおキツネ村での解散を希望した。小野さんは、突如降ろされたおキツネ村近くの山で、冬は樹氷を形成する木々が立ち枯れていることに驚く。オオギツネはそういった植物には関心が無いのか、2匹と小野さんを遠慮なく山の中腹の駐車場に降ろして、さっさと飛び去った。

駐車場で降ろされた2匹と小野さんは、仕方なくそこからは徒歩で下山することにした。久しぶりに歩くと体は重く、気温は低いものの、日差しはまだ暑かった。汗だくになりながらようやく下山すると、小野さんは麓にある足湯で旅の疲れを癒やした。

2匹の猫達は、親切なお土産屋さんから魚の干物をもらい、久しぶりに美味しいランチをほおばった。小野さんは足湯に浸かりながら、スマホで地元のタクシーを手配する。猫さんは引き続き小野さんのリュックに、チョビヒゲ猫は、小野さんが干物のお礼にと購入した、植物の蔓で編んだ大きなカゴに入り、足湯に到着したタクシーに乗車する。

車内では、グーだのムニャムニャだの、沢山のイビキや寝息が飛び交い、ここぞとばかりに全員が爆睡した。そして、ようやく帰ってきた商店街を通り、目を疑った。かつてオオギツネのお祭りが開催されていた通りには、白ヘビ様と書かれた目新しいノボリが立ち並んでいる。

猫さんたちが旅をしている間に、街の祭神はすっかり白ヘビ様に置き換わっていた。無事、自治会館へ到着すると、トラロープは元の倉庫に格納されており、オオギツネの予感通り、そこには商店街のおやじがいた。おえらいさんは遅い夏休みを取っていて、チョビヒゲ猫と猫さんの不在を咎められることはなさそうだった。

「祀ってる神が祭りに来なけりゃ商売にならねぇ」

猫さんは最初からこのおやじがあまり好きではない。チョビヒゲ猫は、ここに来てようやく猫さんの感覚は正しいのかもしれないと思うようになってきた。商店街のおやじは、大狐を捕獲出来なかった代わりに、ジャパンスネークセンターに最近保護された珍しい白ヘビを借りてきて、白ヘビ様として大狐の祠に祀り、改めてイベントを開催するという。

猫さんは、まさかとは思ったが、一応小野さんとチョビヒゲ猫に確認してほしいことを依頼する。小野さんは言われた通り商店街のおやじと無駄話をし、その隙にチョビヒゲ猫は白ヘビ様が祀ってある大狐の祠に行く。そして祠を覗き込み、身をよじって祠の奥に置いてある透明な箱を覗き込んだ。

箱の中では、赤い目をしてやせ細ったヘビが、小さなトグロを巻いていた。よくよく何度も見ても、そこには猫さんが探している白い石らしきものはなかった。チョビヒゲ猫はこれ以上猫さんをガッカリさせたくなかったが、こればかりはしかたがなかった。



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