『イワノキツネ』第2部 №10
夜空が夜明けで白んできて、周りの風景が見えるようになると、大狐は猫さんの額に乗せた悩みを聞く石が盛んに反応する場所で、フワリと下降する。うっすら見える看板には観光地なのか"ビューランド"と書いてある。大狐は丸い木造の場所に降り立つと、うずくまりスヤスヤと眠り始めた。
チョビヒゲ猫と猫さんがそれぞれの尻尾から、小野さんも大狐の背中から円形の場所に降りると、清々しい海風が吹き抜けた。そこは見晴台のようで、夜の闇は朝日に変わり、輝く海がキラキラと美しい。眼下には、海の中を走るように島へとつながる奇妙な陸地が横たわっている。
「天橋立だね」
猫さんの額に置いてある悩みを聞く石は「ここでしょう」と自信たっぷりだが、猫さんは大変素敵な風景で神秘的だけど、根本的に何かが違うと感じる。確かに形状は似ているのだが、夢で見た場所ではないようだった。猫さんは首を横に降る。小野さんは、猫さんの目的地がここではないことをなんとなく察知していた。
「ここも美しいじゃないか」
猫さんはうなずくと、額から悩みを聞く石がポロリと落ちた。チョビヒゲ猫が石を拾うと、石は相当がっかりしたのか、少しヒビが入っていた。猫さんは石をさすりながら再び石を額に乗せる。
長居は無用と、次の候補地に移ろうと大狐に依頼しようとするも、疲れているのか、大狐は見晴台で深い眠りについている。園内には観光案内の試験放送が流れ、チラホラと関係者の方々がお掃除を始めていた。小野さんと2匹は大狐を揺らしたり軽く噛み付いたりするも、全く起きる気配がない。近くを掃除していた方がうずくまる大狐を見て、その巨大さに大声をあげた。小野さんはすかさず、
「那須の有名なキャラクターの着ぐるみです」
フォローをして、2匹の猫は尻尾に隠れる。
「こちらのイベントにお招きいただいたようで」
関係者の方は、着ぐるみならと安心してお掃除を続けた。小野さんはこれ以上ごまかしはきくまいと、伏せている大狐の耳に顔を突っ込んで、起きろ!と大声を出した。それでも起きないので、猫さんとチョビヒゲ猫も、もう片方の耳に入り込み、同じようにニャー!と大声をあげる。
2匹の猫と人間の大声で、ようやく目をさました大狐は、寝かせていた尻尾を一本ずつ立て直すと、ゆっくり大きく背伸びをする。2匹は再び尻尾へ、小野さんは大狐の大きな背中へ掴まり、なんとか人が集まる開園直前に、ビューランドを飛び立つことが出来た。
大狐は次なる候補地へ向けて、すっかり日が登った澄み渡る青空へと、旋回しながら高度をあげて悠々と飛び立った。