『あらわれない世界』№7
「メジェドだね」「カーですね」
お偉いさんと小野さんは、同時に見解を述べる。猫さんは、サッと目の前を横切った白い何かを見る。チョビヒゲ猫は、ブチブチとまだ音が鳴る黒い壁の焼け跡を、シゲシゲと眺めている。
「ここはオシリスの館という訳だ」
お偉いさんは、なんだかワクワクしている。小野さんは、時間差はあれど自分の読みが当たったことで、そうなれば…と、お偉いさんから会館の裏にある物置の鍵を借りると、中から何やらガタガタと高い梯子を取り出し、庭先のバーが現れた塀に立てかけた。
「ははぁ」
博識なお偉いさんは何か思い当たるのか、ニヤニヤしている。猫さんは、最近自分が遭遇する物体も奇妙だが、小野さんのとる行動も、なかなか奇怪になっている。チョビヒゲ猫は、壁の焦げ跡を見て、これがどこから照射されたのかがとても気になった。壁から床へクンクンと匂いを嗅ぐと、焦げ臭い匂いはパントリーの方へと続いている。
「白蛇が通ったら光ってしまうねぇ」
お偉いさんが嬉しそうに笑うと、小野さんもハハハ!そうですね!とつられて笑った。
…とはいえ、小野さんには冥界の重鎮として、どうしても気がかりな点があった。もしかすると…そう思うと今すぐ梯子をかけずにはおれなかった。夜に予定があるお偉いさんは、会館の鍵を小野さんに預けて、しぶしぶ帰宅の途につく。
夜も深まり、周囲もすっかり寝静まる頃、泊まり込んだ小野さんと猫さん達が居間で寝ていると、庭先でゴォォォンと大きな金属音がした。今度はなんだとチョビヒゲ猫が起き上がり、破れた障子の穴から庭を見ると、巨大な金属の塊が庭に落ちている。
次に起きた小野さんが、チョビヒゲ猫を後ろから抱きかかえるようにして、一緒に障子を覗きこんだ。猫さんは大きな音に驚いて、反射的に飛び込んだパントリーの狭い隙間から出てこない。
小野さんの予感は的中したようで、ガックリとうなだれている。
「…あれはうつろ舟だ…」