『イワノキツネ』第2部 №13
大狐は島の1番高いところで丁寧に毛づくろいをしている。チョビヒゲ猫は全速力で追いかけたが、大狐のいる場所には辿り着けそうになかった。チョビヒゲ猫はトボトボと山道を歩いていると、冥界ドローンがチョビヒゲ猫の頭をかすめて飛んでいった。
チョビヒゲ猫は反射的にドローンを掴むと、一瞬グラついたものの、冥界ドローンは力強くチョビヒゲ猫もろとも大狐のいる島の頂上まで勢い良く飛んで行った。大狐は体の隅々までゆっくりと毛づくろいをすると、丸くなり、またスヤスヤと眠り始めた。
けたたましい羽音と共にチョビヒゲ猫が大狐のいる場所へ降り立っても、大狐は気づかない。チョビヒゲ猫はドローンを片手に、大狐の尻尾に乗り込んだ。大狐はしばらく眠ると、ゆっくりと目を覚まし、大きく伸びをして、とある方角へと視線を定める。視線の先には別な陸地があり、大狐は身震いをして、尻尾が順に波を打ち始めた。
大狐は大空へと飛び上がり、大きな飛翔をした。瞬間移動のように別な陸地のとある山の上に移動すると、大狐は大きく体を震わせる。すると、大狐の体からバラバラと沢山の白い石がこぼれ落ちた。
「あっ!あの石だ!」
チョビヒゲ猫は思わず声を上げた。そもそも猫さんは、白ヘビが持ち去った石を返してほしかっただけで、もとはといえば大狐が猫さんにあげた石の1つなのだ。何も遠くまで探しにゆかなくとも、石は既に共にあったのだ。
大狐がコーンとひとなきすると、陸の山から沢山の鳥達に混じって一羽の美しい鶴が現れた。美しい鶴は山に落ちた白い石を、まるで数を数えるように、1つ1つとついばんだ。
チョビヒゲ猫は尻尾の隙間から様子を見ていると、大狐と美しい鶴は昔馴染みのようだった。鶴は一通り石の数を確認すると、山の奥へと大狐を招き入れた。
チョビヒゲ猫もそのまま尻尾にしがみついてついて行くと、進む途中で、自分達が進む方向とは逆の山道に、大きな珍しい爬虫類が歩いているのを目撃する。幻でなければそれは大きなワニのようで、冥界ドローンはその奇妙な生き物もしっかりと記録していた。
美しい鶴は立派な祠の前にいて、大狐に新しい白い石をいくつか授けた。大狐はブルブルと体を震わせて、大きな胸元にすっかりしまい込んだ。実はチョビヒゲ猫は、かつて大狐のくれた石などなんの価値もないと思っていたが、一連の経緯を目撃して、猫さんが執拗にあの石にこだわる理由が少しわかった気がした。
そしてチョビヒゲ猫は、その鶴が控える立派な祠の奥に飾ってある古い絵を見て、妙な既視感を覚えた。そして、今すぐここに猫さんを連れて来なければという衝動にかられる。チョビヒゲ猫は、なんというか、よくわからないが、とにかくなにかを直感した。