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『イワノキツネ』№14

猫さん達がずっと握っていた石には、何も絵柄が描いていなかった。チョビヒゲ猫の石には何か描いてあったようだが、ずっと握っていたせいで、絵柄が取れてすっかり真っ白になっていた。猫さんはその石が好きだった。すべすべした感じが持っていて気持ちがよく、なんとなく嬉しいのだった。

余計な荷物を減らしたいチョビヒゲ猫は、せっかくもらった白い石をキツネに返そうと言い出した。すると、眠っているキツネが寝言のようにムニャムニャ喋り始める。

「…その石を入れる箱を用意しなさい…」

勘の良いチョビヒゲ猫は妙に納得して、早速自治会館にある空のお菓子箱を用意する。鋭く研いだ爪で蓋に石が入る穴を開け、チョビヒゲ猫が早速白い石を入れると、キツネは満足してまた眠った。猫さんは、石が気にいっていたので返す気はなかったが、なぜか無性にキツネに何かしてあげなくてはという気持ちになっていた。

「…おんぴらぴらけんぴらけんのうそわか…」

キツネは寝言なのかずっとなにか呟いていたが、猫さん達には聞き取れなかった。結局、猫さんには石を置いておく場所がなく、返したくはないがチョビヒゲ猫に習い、しかたなく菓子箱に石を返そうとすると、それは突然に起こった。横にいたチョビヒゲ猫が、なぜか猛烈に苦しみ始めたのだった。

「ウアァァ!」

チョビヒゲ猫は断末魔の叫び声をあげ、悶え苦しんでいる。あまりの出来事に猫さんは驚くも、前にキツネが言っていた"ヨツアシのいけにえ"が脳裏をよぎる。キツネはいよいよ石にヨツアシのいけにえを要求して…チョビヒゲ猫も自分も白い石のいけにえに…

バリバリバリ…!

このタイミングでチョビヒゲ猫の背の皮が剥け、尻尾が立派な2本になった。単にチョビヒゲ猫は大きく1つ年を取ったのである。大袈裟なチョビヒゲ猫の反応に猫さんは拍子抜けする。同時に自分の尻尾も元々2本あっただけに、なんだか複雑な気持ちになる。多くあれば恥ずかしく、無ければ欲しいのである。

「こんなに痛いものか」

脂汗をかいていたチョビヒゲ猫がようやく落ち着き、息を整える。猫さんは思い直し、やっぱり白い石を箱に返すのをやめた。改めて白い石を握りしめると、スヤスヤ眠っているキツネに鼻チョンした。キツネは気づいていなかったが、猫さんは何かを返したような気持ちになった。

バタン!と外で軽トラのドアが閉まる音がすると、眠っているはずなのに、キツネはうずくまったままスルスルと、下の方からまた徐々に白い岩へと固まっていった。





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