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『あらわれた世界』№8

「NO」

42回目の否定を終えると、その者は天秤にかけられた。天秤は釣り合わず、後ろに控えていた奇妙な獣に喰われてしまった。

「また不毛な裁きをした」

オシリスは虚しげに呟いたが、獲物にありつけた奇妙な獣は満足そうだった。伏し目がちに首を横にふりため息をつくと、オシリスは仕方なく次の審判を待つ者を部屋に迎えた。

暗闇の中は右往左往するばかりで全く落ち着かない。球体は360度回転し、小野さんと猫達はエンドレスで回転し続けた。さすがに全員の気分が悪くなりかけた頃、ようやく暗闇は突然に球体を明るい世界へと吐き出した。

そこは見渡す限り何もない大海原で、球体はプカプカと海上に浮かんでいた。半分が海水に浸かっているので、時折お魚が横切ったが、触ることは出来なかった。あまりにも目まぐるしい変化のため、小野さんも猫達もしばらくボンヤリしていたが、突如球体の後ろから、1艘の船がキイキイと音をたてて近づいてきた。

「ぶつかる!」

小野さんと猫達は衝突を覚悟したが、不思議なことに、船はスウッと球体をすり抜け、まるでこちらに気がつかない様子でグングンと先に進んでいった。それは木造船のようで、確かに誰かが乗っていた。

事態が飲み込めないチョビヒゲ猫は呆然としていたが、猫さんはハッと身を乗り出し、船を凝視して、慌てて球体の中で船に向かって走り始めた。

球体はくるくると海の上で回転したが、全く前に進まない。小野さんが走り出した猫さんを抱き上げて理由を尋ねると、あの船に自分が乗っていると叫んだ。

「それじゃドッペルゲンガーじゃないか」

小野さんは呆れたが、猫さんは確信している。小野さんは真剣な猫さんの主張を信じることにして、球体を操作するために、方角を示す詩を2首唱えた。すると球体はすぐさま反応して、くるりと方向転換し、少し浮かび、海の上をスルスルと滑るように前へと進み始めた。




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