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『イワノキツネ』第2部 №16

チョビヒゲ猫は困っていた。

冥界ドローンが持ちにくいので、向きを変えたら付属のスイッチを押してしまい、ドローンは勝手に飛んでいってしまった。まずいことになったと、鶴と大狐が話している社に戻ると、なんと大狐もさっさとどこかへ飛び去ってしまっていた。

軽くパニックに陥ったチョビヒゲ猫に、優しい鶴が、特別に境内の使いを貸してくれた。しかし、チョビヒゲ猫はそれでもどうして良いかわからず、使いを貸してくれた鶴の手前、とりあえず特別な使いに乗り、それとなく鶴のいる山を降りてみることにした。

こうして島に上陸した猫さんと小野さんは、期せずして、美しい毛並みの鹿に乗ったチョビヒゲ猫と、鶴のいる社の鳥居の前で久しぶりの再会を果たした。チョビヒゲ猫は、ドローンも大狐もすっかり飛び立ってしまったと小野さんに告げると、さすがの小野さんも完全に意気消沈した。

なんでも鶴の話によると、大狐は"尻尾も疲れたので橋を見に行く"と、飛び立ったそうだった。すると沙弥島のワニが「"オオギツネ"というのは尻尾が多いのか」と重低音で唸った。チョビヒゲ猫が、9本あることを説明すると、ワニは少し考えて何か思い当たるのか、この際ついでだから乗っていけと言う。

すっかりやる気を無くした小野さんは、膝を抱えてワニに乗り、チョビヒゲ猫は、毛並みの良い使いの鹿にお礼を言って、鹿から小野さんの愕然とした肩に乗り、猫さんは再びリュックに入った。チョビヒゲ猫が加わり、陸を這うワニは相当重そうに地面を歩いたが、路肩の横からドボンと海に入ると、がぜんスイスイと泳ぎだした。

昼間の疲れなのか、チョビヒゲ猫が重いのか、小野さんは抱えた膝にすっかり顔を埋めている。チョビヒゲ猫は、絶対に濡れないように、小野さんの肩にしっかり爪を立てて掴まっている。

空が暗い雲に覆われ、海が完全に漆黒の闇に包まれる前に、ワニ一行は目的地に到着した。

「…沙弥島…?」

落ち込んでいた小野さんがワニに問うと、ワニはゆっくりと街灯に照らされたコンクリートの海岸を歩き出した。一行は黙ってワニの後をついて行くと、行く先に異常に長くヘンテコな椅子が置いてあった。そこによく見ると、まるで沢山の舎弟を引き連れたボスのように、自分の尻尾を一本ずつ椅子に置いた大狐が座っていた。猫さんもチョビヒゲ猫も、状態がよくわからなかったが、落ち込んでいた小野さんだけが笑った。

"オオギツネ"は時折、鶴のいる島へやって来るそうだが、何十年という周期のため、沙弥島のワニは、尻尾が多い怪物としか聞いたことがなく、実際にそれを見たことはなかった。ある頃から沙弥島にヘンテコな椅子が置かれ始めると、そいつが夜になるとこの椅子に座るという噂が流れた。ワニは、タコやイカが好んで座るのだろうと思っていたので、座っている大狐の姿を見て、驚いた。

夜になり、お世話になったワニが島にある洞窟に戻ると、街灯に照らされた、とんでもない広さの椅子に尻尾を置く大狐は、誰に向けてでもなく、夜空を仰いで1人静かに、鶴との思い出を語り始めた。







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