『イワノキツネ』№4
黄金のキツネが飛び去った抜け殻の岩には沢山の人々が押し寄せていた。
「この岩が割れるなんて!」
「何か良くないことの前触れかもしれない…」
様々な憶測が飛び交い、人々の話題になっていた。
今やテレビのない公園で暮らす猫さん達は、そんな世間の騒ぎを知るよしもなく、2匹はボランティアさんが夕方に配給してくれるご飯で日々をしのいでいた。公園とは無秩序なもので、2匹は先住猫さん達とわずかばかりの配給を奪い合うような毎日に、すっかり心はすさみ、日に日にやさぐれていった。
ある時公園のボス猫にご飯を奪われたチョビヒゲ猫は、温存していたキツネ用の鋭利な爪でボス猫に決闘を挑もうとした。猫さんはそんなことで戦いを挑むものではないとたしなめたが、チョビヒゲ猫は聞かなかった。
かくして公園のボス猫はチョビヒゲ猫の決闘を受け入れ、一対一の戦いが始まろうとしていた。猫さんは呆れて少し離れた芝生の日だまりで丸くなっていた。
日が暮れ始める頃、冷たい夕の風と共に公園へ長毛のボス猫が姿を現した。チョビヒゲ猫は武者震いすると、ご自慢の爪を大きな木で更に研いだ。ボス猫はチョビヒゲ猫を見ても悠々と歩いている。
しばらくお互い睨み合って、最初に声を発したのはチョビヒゲ猫だった。その後2匹は堰を切ったように猛烈な罵り合いを始めた。チョビヒゲ猫は日頃の餌の分配や慢性的な強奪への不満をぶちまけ、ボス猫は終始わけのわからないことを怒鳴り散らした。そのうちに激しい猫パンチの応酬となり、双方牙を見せあい、最終的には取っ組み合いになった。
結局、ぽかぽか陽気にうたた寝を始めていた猫さんにボス猫に投げ飛ばされたチョビヒゲ猫が体当たりして、無関与を決め込んでいた猫さんが逆上して決闘に乱入、ボス猫の舎弟も加わり、ただの大乱闘になった。
「お前達ここで何をしている!」
もつれた糸のように複雑に絡み合って乱闘していた猫達は、突然響いた人間の声にびっくりして、チョビヒゲ猫はひるがえり、ボス猫とその舎弟達は慌てて自分の縄張りへと走り去り、猫さんはその場に立ち尽くした。
声の主は近所のおえらいさんだった。ちょうど近所の夜回りで公園の側を通りがかったようで、手には紐のついた2本の木を持っている。
「防災倉庫の番はどうした?」
チョビヒゲ猫はキョトンとする。そしてすぐさまハッと何かに気づくと、おえらいさんに一礼して一目散に防災倉庫へと走り出した。動けなくなった猫さんは、とりあえずおえらいさんに頭をなでてもらい、体の緊張を解いた後に、遅まきながらチョビヒゲ猫の後を追った。