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『あらわれた世界』№4

「マンデラエフェクト?」

居間にいる全員が声を揃えた。
お偉いさんは頷く。今、世界各地で微妙な記憶違いが起きており、各々の認識に生じるズレをそう呼ぶそうだった。リアルタイムで思い当たるチョビヒゲ猫は、思わずニャー!と叫んだ。

さすがの小野さんも、相当思い当たるフシがあるのか、真剣に腕組みをする。猫さんは全くわからず、眠たそうにしている。お偉いさんは、遠い国で行われた会合のランチタイムにその話を聞き、鳥肌がたったそうだった。

「…虚ろ舟ですよね…」

珍しく神妙な面持ちの小野さんに、お偉いさんは確信に満ちた眼差しで深く頷いた。トンボの親父を元の世界に戻すため、虚ろ舟で何度も転移を繰り返すうちに、どこかの世界に干渉したのか、小野さんの生きる世界線上で、微小なマンデラエフェクトが発生してしまったのだった。

話が見えない猫さんはすっかり眠ってしまった。
チョビヒゲ猫は雄叫びをあげ、部屋を駆け回る。小野さんは、自分の行動により自分の記憶が書き換わる事に動揺した。そして、猫さんの尻尾が2本あった世界と、1本のまま過ごした世界に分岐しているのに、同じ世界に2つの事実が存在していることに困惑した。

「虚ろ舟は一例に過ぎない」

お偉いさんは、寝ている猫さんを撫でながら、旅のお土産をつまんだ。走り疲れたチョビヒゲ猫も静かにちゃぶ台に戻り、置き水をぺちゃぺちゃと飲んだ。小野さんは、お偉いさん達には話していないが、どうしても気になることがあり、その日は早めに会館を後にした。





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