◆読書日記.《ネルノダイスキ『いえめぐり』》
※本稿は某SNSに2021年6月4日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。
ネルノダイスキのアート系マンガ『いえめぐり』読みましたよ~♪
いやー、久しぶりに『ガロ系』と言っても良い、実に楽しい実験マンガ的作品に出合えて満足しました。
この飄々とした作風に、作者があらん限りの奇想をつぎ込んでマンガの枠からはみ出そうという情熱を感じて、まずそこに嬉しくなっちゃいました☆
ストーリーは単純。
あるお客さんが不動産屋さんと一緒に色んな奇妙な極まる物件を内検して回り、お客さんが「うーん、これはなー」と悩んで次々と見て回るというだけのお話。
で、その「奇妙極まる物件」というのがクセモノ。あらゆる定型を外した常識外れの家々を巡る、もはや一種「地獄めぐり」にも似た内見となる。
偏執狂的に内装にのめり込んで意味不明なオブジェに溢れる家やアリの巣のように地下に広がる家、または宇宙人の襲来を警戒してムチャクチャ厳重なセキュリティが幾重にも幾重にも続く家など……ヘンテコを通り越して異常としか思えない物件の数々。
お客さんはそれを見て回り、「ちょっと日当たりが悪いから…」とか、「台所がちょっと小さい」とか割と普通な事でNGを出す(笑)。
次の物件に行けば行くほど、その物件の異常さはエスカレートしていき、様々な未知のグロテスクな生物や巨大植物、見た事もない不気味なオブジェや奇怪な内装は増えていき、果ては「家」という概念さえ危うくなっていく……という所までエスカレートする。
シンプル過ぎるストーリー構造は明らかに物語の起伏で読ませるタイプの作品ではない事を示唆している。
内見が進むほどに物件の中にある奇妙な内装や現象の情報量が増えていく。
コマ数も少ないのに、その物件ごとの内装を細かに眺めていくだけでも結構な時間を要するほど様々なシュルレアリスム的イマジネーションがつぎ込まれている。
恐らくこの作者はこの作品をそういうある種「読むアート」として書こうと意図していたのではなかろうか。
読者は、この物語の主人公のお客さんと一緒にさながら「地獄めぐり」のような物件めぐりを通して、主人公と共にこの奇妙な世界を見て回る事になるのだ。
主人公も不動産屋さんも、表紙にあるように単純な線で書かれた記号的表現であるのに、見て回る物件の内装は細かい陰影をつけられた立体的描写で、この奇妙で非現実的な物件のほうがリアリスティックな表現を用いているというのも面白い。
主人公らは記号的で空虚なのに、物件だけが異様な存在感を誇示しているのである。
本作は、そんな風に作者の「考えうる限り奇妙な事をしてやろう」という稚気が存分に発揮された奇怪極まりない「読むアート」となっていて非常に楽しい読み物だ。
読み終わってからも、またこの奇妙な物件を巡る「地獄めぐり」の旅に再び浸りたいとページをペラペラと捲ってしまう魅力がある。お勧めの一冊です!
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