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◆レビュー.《ピーター・バーグ監督『キングダム/見えざる敵』》
※本稿は某SNSに2020年9月8日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。
本日は午後ローにて2007年に制作された映画、ピーター・バーグ監督の『キングダム/見えざる敵』を見ましたよ♪
「社会派サスペンス映画」としてFBIの捜査官4人がサウジアラビアに乗り込んでアメリカ人居住区で起きたテロ事件を捜査するという「リヤド居住区爆破事件」をモデルにした映画でした♪
<あらすじ>
サウジアラビアの首都リアドである時、警察官を装ったゲリラ集団がアメリカ人が住む外国人居住区を襲撃。銃を乱射した上に巨大な車爆弾で自爆テロを行った。
事件を知った本国アメリカFBI捜査官ロナルドは捜査のためにサウジ入りを要求するが、捜査を拒むサウジ政府のためにサウジアラビアに入国する事さえ難しい。
ロナルドは米国内のサウジ筋をあたり、何とかサウジアラビアでのテロ事件の捜査をサウジ政府から了承される。
但し人数は限られ、捜査日数は5日のみ。
現地の警察の警備の下で捜査する事という厳しい条件付きだった。
ロナルドは法医学調査官のジャネトや爆発物の専門家グラントらを連れて4名のみでサウジ入りする……というお話。
<感想>
イスラム教という異教のアラブの国、サウジアラビアにてアウェーの状態で、様々な制約や障害に苦しみながらも捜査を行い、最終的にテロを行った組織と対決する事となるFBI捜査官の活躍を描いたサスペンス&アクション映画。
手持ちカメラを使ったドキュメンタリー・タッチの撮影方法が妙な臨場感と緊迫感を醸し出していて、サスペンスとしての雰囲気はいい。
現地の警官アル・ガージー大佐はプロ意識の高い警官だったが、上官には逆らえない。
だが、最近は部下のハイサム軍曹が尋問で暴力を受け、不満も募らせていたようだ。
アル・ガージー大佐は当初、ロナルドらを高圧的な態度でサウジのルールの管理下に置こうとするが、ロナルドらと仕事をしていく内に、互いのプロ意識の高さに友情を感じるようになってくる。
こういう、文化や宗教は違えど正義感やプロ意識によって連帯を強めていくというこの展開はいかにもアメリカ人好みといった感じ。
前半はFBI捜査官がサウジ入りするまでの組織間交渉や政治的交渉等のポリティカル・フィクション的な感じで、中盤に入ると捜査を通じて友情を深めていく警察小説や教養小説的な内容となり、犯人が特定する後半は打って変わって30分以上にも渡る圧巻のアクションシーンが展開する事となる。
サスペンス長編とはうが、本作はこのように前半のポリティカル・フィクション~中盤のサスペンス・ミステリ~ラストのアクション、といったように大きく三回に分けて物語の性質が変化する映画となっている。
脚本がそつなく出来ているので、娯楽映画としてはなかなか完成度の高いものとなっている。
アメリカ人も、アラビア人も、互いに互いを胡散臭い人間だと見ているのが、この映画を見ているとよくわかる。宗教の違いというのはそれほどの差なのだろう。
本作のラストに出てきた、テロ組織の親玉のまだ幼い孫が「皆殺しにしてやる」という祖父の遺言を復唱するのがラストのロナルドの苦い表情にダブってくる。
「社会派サスペンス」としてなかなかのクオリティの娯楽映画となってはいるが、「娯楽」としての完成度にこだわってしまっているためか、どこをとっても「そつない感じ」が強く優等生的な映画と言う印象が強い。
分かり易く、かつ楽しく、というハリウッド的な原則に忠実な映画作りだと言えるだろう。
だがその「楽しさ」が強い反面、本作に込められているメッセージ性は弱いと感じる。
視聴者の胸に迫ってくるような迫力も、それを効果的に伝える工夫にも乏しい。
とにかく楽しい娯楽映画に、オマケでメッセージ性も込めてみましたよ、という後付けのテーマじゃないの?とさえ思えてしまうほどだ。
本作のモデルとなった事件「サウジアラビアのリヤドにおける爆発事件」は本作とほぼ同じく、サウジのリアド市内でアメリカ人等が多く済む外国人居住区で爆弾テロが起こり、28人が死亡、100名前後が負傷した大事故だった。
この事件の背後にあるのも恐らくテロ組織アル・カイーダではないかと言われていた。
友好国ではあるが、当時は多くのアラビア人がアメリカに対する憎悪を抱いていたのは間違いなく、それをアメリカ人もひしひしと感じていただろう。
そういったギクシャクした関係を、アメリカ人当人はどのように見ていたのか、というのがこの映画では少しだけ伝わってきて、その点では興味深い内容ではあった。
だが、正直本作はそういったテーマに関する深掘りが感じられず、「不正解」ではないものの、想像の範囲内の退屈な答えを示されたようで物足りなさの残る内容であった。
そつのないエンタテイメント映画に、重くなり過ぎない程度に社会派的なテーマを注入した優等生的映画、といった印象であった。