【無料公開】「サイフの穴をふさぐには?」(連帯保証人編)
はじめましての方もおひさしぶりの方もこんにちは!
オロゴンと申します。
銀行勤務のサラリーマンから独立して、いまは大家さんをやったり、アフィリエイトをしてみたり、経営コンサルティングをしたり、不動産のコラムを書いたりしています。
2020年4月に、お金や社会のルールに関する僕の知識をこれでもかと詰め込んだ本を書きました。エッセイでも、ツイッターの書き起こしでもなく、なんと、小説です。
ブログを書く習慣すらない僕が、作品としての面白さも求められる小説を10万字以上書くという、鬼のように無謀なチャレンジを選んでしまいました。今考えれば、無謀中の無謀です。
のちに、エゲツないほどの「あーでもない、こーでもない!」(髪の毛グチャグチャ)を繰り返し、締め切りに終われ、何日も徹夜して、激しく後悔したことは言うまでもありません。
また、間違いのあってはならない税務面は、なんと、チャンネル登録数30万人目前のYoutuber 税理士・大河内薫さんに監修していただくことができました。「大河内薫のマネリテ学園」に、「サイフの穴をふさぐには?」も出演中です。チャンネル登録して探してみてくださいね♪
突然のDMで監修を快諾いただいた大河内さんにも本当に感謝しております。ありがとうございました。
このように、僕としては寿命と脳みそを粗削りして、不器用ながら丹念に詰め込んだような本だったワケなのですが、残念ながら発売日の3日後に、初の緊急事態宣言が発出され町の本屋さんがことごとく閉まった影響もあったのか、僕のネットでのプロモーションに至らない点もあったのか(おそらくコッチ)、正直、「飛ぶように売れてます!」とは言い難い状況です。
それでも、自分としてはとても良い内容になったと感じているし、読んでくれた読者のみなさまからは嬉しいお声をいただいています。購入前にぜひ、Amazonのカスタマーレビューに目を通してみて下さい!
そんな「サイフの穴をふさぐには?」ひとりでも多くの人に届いてほしくて、今回の無料の試し読みを、このnoteをクリックしてくれたアナタにお届けしたいと思います。
ツイッターで8万RT・12万いいね!と僕のSNS経験上、最初にして最大にバズったツイートが元になっていて、とても思い入れの深い「連帯保証人」についてのお話です。
【あらすじ】
うだつのあがらないサラリーマンの三崎ソウタは、お金があればついつい使ってしまうタイプで、まるでサイフに穴のあいてしまっているような生活を送っていた。ある日、結婚式のご祝儀を捻出できないで困っていると、こどもの頃にお年玉を貯金していたブタの貯金箱を押入れの奥で見つける。貯金箱を割ろうとしたその時、なんとその貯金箱がしゃべりだした! 豚の貯金箱は知恵と金の神、フゴー・マネーリテだったのだ。お金について何も知らないソウタにフゴーは給料から引かれる税金や社会保険の仕組み、節約の仕方などなど…これまで学校でも会社でも教えてくれなかったお金の基礎知識を叩き込む。フゴーと過ごすことで少しずつ変わり始めるソウタだったが、ある日、会社の同期で友人の前田が100万円の借金の連帯保証人になってくれ、と泣きついてくる。その場で即答できなかったソウタは、とりあえず家に戻ってフゴーに相談することにした。
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「ただいまぁ…」
僕はさっそく、前田から頼まれた“レンタイ保証人”の件を相談したくてフゴーを探す。
しかし、電気をつけて部屋の中を見渡しても、あのピンクの貯金箱の姿はどこにも見当たらない。
「フゴー……?」
どこに行ってしまったんだろう。昨日みたいに、1人にしてほしいときはやたら絡んでくるくせに、こっちが相談したいときに限っていなくなったりする。
「まったく、あまのじゃくな神様……」
小言を言っていると、バタンッと背後で急にドアの閉まる音がした。
「だーれが、あまのじゃくやって? え?」
振り返ると、玄関のところにフゴーの姿があった。
「あっ、それは、えっと……」
廊下を通ってぽてぽてとこちらへと歩いてくるフゴーは、なんだか足取りがヨロヨロとしていてぎこちない。
いつものとおりフゴーが飛び跳ねて、机の上へぴょこんと飛び乗ると、ツンと鼻を刺す強烈な酒のにおいがした。
「あれ、フゴーさん、まさか酔っていらっしゃる……?」
いつもは丸く大きなフゴーの目も、今日はトロンとして半開きだ。どうやら、どこかで酒を飲んできたらしい。
「いやぁ~、今日は飲んだ飲んだ。ひっさしぶりにこんなに酔ったわ。ほな、今日はもう寝るかな」
フゴーはこの姿のまま飲みに出かけたのだろうか……? こんな妙ちくりんな生き物(?)が街に出たら、大騒ぎになりそうなもんだ。いや、もしかしたら、神様だけが集まるような、特別な場所でもあるのだろうか。
「……って、おい! ちょっと! まだ、寝ないでくれよ! 今日はフゴーに、相談したいことがあるんだ!」
フゴーは、いかにもめんどうくさいという顔をして、こちらを向く。
「お、どうしたん? 自分もいよいよ、身を固める気になったかあぁ?」
「何言ってるんだ?違うよ!借金のことで、今すぐ相談したいことがあるんだ。」
「シャッキン???」
「同期の前田から「借金のレンタイ保証人になってくれ」って頼まれちゃったんだよ!」
「……連帯保証人やと?」
そう言うと、フゴーの目つきが鋭く変わった。
ついさっきまであんなに酔っ払っていた様子だったのに、まるで別人(別ブタ?)のような真剣なオーラだ。
「まさか……、もうサインしたんやないやろな?」
さっきまでと一転して深刻そうにしゃべるフゴーの様子に、思わず息を飲む。
「い、いや、サインはしてないよ。よくわからなかったし、フゴーに相談してからの方がいいと思って……」
するとフゴーは、安堵したかのようにホッと顔をゆるめて、つぶやいた。
「つい昨日、借金についてレクチャーしたばかりやけど、こんなにも早く“借金の最大にして最凶の落とし穴”にハマりかけるとは……、自分、ホントに才能あるよな。“借金界の大物ルーキー現る”やで、ホンマ!」
「そんな才能うれしくないよ!っていうか“最凶の落とし穴”って? レンタイ保証人が何だっていうのさ?」
「じゃ、自分は、前田の話を聞いて、どういうことやと思ったんや? 何をしてくれって頼まれた?」
「前田は「名前だけ貸してくれればいい」って言ってたけど……。“レンタイ保証人”ってことは連帯責任ってことだろうから、もし前田が借金が返せなくなったら、前田の代わりに僕がその借金を返さなきゃいけないってことだろ……?」
するとフゴーは黙って、短い首を横に振る。
「そう思ってる人も多いんやけどな。その、“代わりに借金を返す人”っちゅうのは、民法で言うところのただの“保証人”やねん。“連帯保証人”とはちゃうんや」
「えっ、“連帯保証人”と“保証人”は別モノ……?」
「“連帯”保証人っちゅうのはな、言わば保証人の上級版で、ただの保証人に認められている3つの権利を放棄させられている、極めて弱い立場の人のことなんや。その3つの権利っていうのはな……」
ゴクリ。
まるで怪談話でもするかのようなフゴーの低い口調に、思わず生唾を飲み込む音が聞こえ、びっくりする。
「①催告の抗弁権、②検索の抗弁権、③分別の利益。この3つや」
「うわ、急にむずかしい法律用語が出てきた……」
僕は思わず苦笑いをしたが、フゴーのまなざしは真剣だ。
「まず、①催告の抗弁権。“催告”っちゅうのは、要は“催促”のことや。せやから“催告の抗弁権”とは、保証人の自分が、債権者(金融機関)に「代わりに金払え」と言われたとき、「いや、まずは借りた張本人に催促せんかい!」と文句を言う権利のことや」
「文句を言う権利ねぇ……。そりゃあ、金を借りたのは前田なんだから、まずは前田の方に催促してもらうのが筋じゃないの?」
「ところがな、連帯保証人にはこの催告の抗弁権がないわけや。だから、債権者が、張本人の前田より先に自分に「金を払え」って言ってきても、自分は何の文句も言わずに、それに応じなければならないんや」
「じゃあ、もし金融機関が、前田より僕から取り立てた方が手っ取り早そうだって判断したら……?」
「そう、自分に拒否する権利はないんや。まあ、金融機関もよっぽどのことがない限り、借りてる本人を差し置いていきなり連帯保証人に対して請求してくるってのはなかなかないやろけど、理論上はそれも可能っちゅうことになるな。たとえば、前田と一切連絡が取れなくなっても、前田本人を死に物狂いで捜さなくても済むわけや。連帯保証人の自分のところに、代わりに返済するよう連絡すればいいだけなんやからな」
「そんな……。「借りた本人に返してもらえ」って、そんな当たり前のことすらも言えないってのか……」
「ほんで次が、②検索の抗弁権。ここでの“検索”いうのは、財産をあれやこれや探すこと、つまり“ガサ入れ”みたいなイメージやな。で、“検索の抗弁権”は、自分が債権者から請求をうけたとき「前田は財産を持ってる。証拠もある。だからまずはアイツの財産調べてみてくれ」と文句を言って借金の肩代わりを拒む権利のことや」
「財産があるんなら、まずはそっちから返してほしいよね。だって借金をした張本人なんだから、当然でしょ?」
「ところがどっこい、この検索の抗弁権も連帯保証人にはない。たとえば前田が借金を返せるだけの現金を隠し持ってたり、不動産や高級車を保有しているという事実を自分が知っていて、「まずは前田の財産から回収してくれ!」と債権者に言っても、聞いてはもらえないんや。まるっと借金だけ押しつけられて、前田はのうのうと豊かに暮らすっちゅうシナリオもありえんわけではないんや」
「そんな……。」
前田とは入社してから4年半の付き合いになるけど、意外とその素性は知らない。パチンコにハマっていたことだって、ついさっき聞いたばかりなんだ! 僕ははたして、アイツのことを心から信用していいのだろうか……?
「そして、最後は、③分別の利益や」
「これだけ、他の2つと違って、ナントカ権って言い方じゃないんだね?」
「そうやな。“権利”っていうのは必要に応じて発動できるものやけど、“利益”は、黙っていても受けられるものを指すな。で、これはどんなメリットかっちゅうと、保証人が複数いる場合、対象の債務(借金)を頭割りした金額しか責任を負わなくていいという利益のことやな。たとえば、100万円の借金に保証人が4人おったら、1人あたりの保証額は25万円になる、これが“分別の利益”や」
「なるほどね。保証人が多ければ多いほどリスクが減らせるんなら、少しは肩の荷も軽くなるかな……」
「ところが、連帯保証人には、この利益もない。つまり債務者からすれば、頭割りする必要がない。ちゅうことは、仮に何十人もの連帯保証人がいたとしても、自分1人に借金の全額返済を債権者が要求してきたら、それに従わなければならないっちゅうことや」
「そんな……、何十人もいるのになんで僕だけ……」
なるほど。
借金の連帯保証人は、僕が想像していたよりずっと深刻な役回りだ。
「わかった。せめて……せめて、さっきフゴーも言ってた、ただの“保証人”にしてもらうよ!」
僕はスマホを手に取り、前田に電話をかけようとした。しかしフゴーは、残念そうに首を横に振る。
「まあ、それは無理やろな。金貸しは、基本的に連帯保証人しか取らん。さっきの3つの権利を使われるとめんどうくさいからな。世の中、そこまで法律のことにくわしい人間もおらんから、自分みたいに「ちょっと名義貸してあげるだけ」って軽く考えて、連帯保証人のハンコを押してしまう人間は、意外と多いんや。でも今言ったとおり、連帯保証人っちゅうのはめちゃくちゃ責任の重い立場やから、これを引き受けるときは、自分が金を借りるつもりでハンコを押さないといけないんや」
父さんが昔から「連帯保証人にだけはなるなよ」と口酸っぱく言っていたのは、こういうことだったのか……。
「そうやって、知り合いに頼まれて断れなかったばっかりに連帯保証人になり、破滅していった人っちゅうのはいっぱいおったな……。最近は法律が改正されたり、インターネットとかでもいろんな情報が手に入るようになって、昔より減っているのかもしれんけど。まあ、友達には申し訳ない話やけど、100万円自分で丸ごと返すだけの覚悟と余裕がないんやったら、これは絶対に断らんとアカン。利子やら延滞損害金やらが上乗せされて、当初の金額よりも借金が増えていく可能性もあるからな」
「……でも、困っている友達を何とか助けたいんだよ。何か、何かいい方法はないのかな?」
「そうやなぁ、サラ金はじめ金貸しはみんな怖いからなぁ。なんたって、血も涙もない鬼みたいなヤツらや。でも、身内みたいに優しくて、金も貸してくれるところが1個だけ思い当たるなぁ……」
フゴーが視線をチラリと見やった先には、先週読み返していた会社の福利厚生ハンドブックがあった。
「あ! そういえば、たしか……」
僕は、大急ぎでハンドブックをめくった。
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翌日
僕は会社に着くと、真っ先に前田のいるフロアに向かった。
「おはよう、昨日はおつかれさま」と声をかけると、モニターから顔を上げて、前田が振り返る。その目の下には、クッキリとクマができていた。
「昨日はいろいろゴメンな……ムリなお願いしちゃって」
「いや、いいんだ。でもな……」
僕はフゴーに言われたことをざっくりと説明しつつ、連帯保証人にはなれないことを前田に伝えた。
「そっか、連帯保証人には、そんなに重い責任があったのか……。そんなこともつゆ知らず、俺は大変なことに友達を巻き込もうとしてたんだな……。三崎、ごめんよ……ゆるしてくれ……」
前田は顔を両手で覆い、何度も謝った。どうやら前田は、僕が信じていたとおりの人間だったようだ。
「いや、いいんだ。僕も勉強になったしさ。……で、代わりと言っちゃなんだけど、ゆうべ、思い出したんだ。前田、このハンドブック持ってる?」
そう言って僕は、“福利厚生ハンドブック”を見せる。
「え? ああ、入社式のとき以来、引き出しの奥に入れっぱなしだな……それがどうかしたの?」
「この52ページにさ、うちの会社の互助会がやってる“生活資金貸付”っていう福利厚生制度があるんだよ! 200万円までだったら、生活資金として会社から貸してもらえるみたいなんだ! まずはここに相談してみたらどうかな?」
前田は僕の顔とハンドブックを交互に見つめた後、僕が差し出したハンドブックをものすごい勢いでめくり、食い入るように制度概要を読み始めた。
ハンドブックに目を落としたまま、前田がつぶやく。
「三崎……この問題が片づいたら、また、飲みに誘ってもいいかな?」
「はは、当たり前だろ? 僕たちは友達なんだからさ。……ただし、借金にはもう二度と手を出すなよ!」
そう言って前田と別れると、僕はブタフで祝杯をあげる2人の姿を想像しながら、自分のデスクのあるフロアへ向かった。
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連帯保証人についてよく知らずにサインすらしかけたソウタは、フゴーの知恵によって、サイフも友情も守る事ができました。
他にもこの本には、僕オロゴンが 社会に出たての自分に教えたいお金の知識をとにかく詰め込みました。
給料明細
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健美家さんプレゼンツのインタビュー動画もありますので、こちらもよろしければぜひ。