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30分で組み立てるインタビューライティング01

出演者の職場や自宅にお邪魔して撮影させていただくドキュメンタリーや情報番組の取材において、撮影に頂ける時間は限られており、ほとんどの場合、セッティング30分、インタビュー1時間というのが基本である。
これより公開するインタビューライティングは全て準備時間30分を目安に構築されている。
現場でいかに無駄なく最良の選択をできるかは技術者の経験と準備にかかっている。
実際の現場で何を考え、どう設営していったのかを紹介する。

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↑カメラからのHD-SDI出力をATOMOS SHOGUNでキャプチャした画像。

◎VR現場画像◎

〜配置〜

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○現場写真
〜使用機材〜
カメラ SONY PXW-Z450
照明 キーライト YONGNUO YN600 
   バックライト YONGNUO YN600 Air
   フィルライト YONGNUO YN600 Air

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↑①キーライト YONGNUO YN600&パラ1枚
カメラから見て右側、被写体視線方向の30度程度上から

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↑②バックライト YONGNUO YN600 Air
カメラから見て左側、キーライトと直交する位置で
キーライトよりやや高め

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↑③フィルライト YONGNUO YN600 Air
カメラから見て左側、被写体に対して真横の位置からほんのりと

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↑④天窓からの外光

〜意図〜

1970年代、第4次中東戦争中のエジプトの政治状況を語る。
ロンドン市内の大学の講堂。
被写体の背後にいかにも歴史ある大学らしい階段席があり、その奥行き感を活かす。
階段席の天井に約3〜4メートル四方の天窓があり、座席の列に適度な明かりのピークができていたのでその部分を背景に取り入れた。

もともと全体的に白壁の部屋で、天窓からの光を受けて柔らかな湿度感のある光の雰囲気だったのを、キーライトを強めに入れることで顔の明暗の印象を強め、中東戦争というテーマのインタビューに相応しい緊張感を持たせた。

当初、キーライトの位置は被写体正面よりに配置していたが、モニターで確認するとメガネの反射が多く出ていたので被写体から見て左手方向に若干移動させた。むしろそのことで陰影にメリハリが出たようだ。

バックライトは画面下手より被写体を挟んでキーライトとほぼ直交する位置に配置し、側頭部、耳、肩のラインを持ち上げた。
フィルライトは全体のコントラストを調整するのみに留める。

色温度はキーライトの光源でホワイトバランスを設定した。

〜解説〜

これは非常に基本的な人物ライティングと言える。
1、画面上の視線方向からキーライト
2、後頭部から側頭部、耳、肩のラインを浮き上がらせるバックライト
3、暗部を整えるフィルライト
以上の3灯で構成する人物ライティングを3点照明と呼ぶ。
この3灯の明かりのバランスで人物の印象を狙い通りの印象に整える作業である。ほとんどのインタビュー撮影はこの照明で対応できる。

次に、というより最も重要なことが背景の構築である。
人間の顔というものは基本的に同じ構造であるから、ほとんどの人物ライティングは上記3灯で対応できる。
それに対し、画面の印象を決定づけるのは実は背景である。
その人物がどういう立場で、物語上どの様なシーンでどの様な内容を話すのか、そういう作り手の意図の全ては背景が物語っていると言える。
この画面では大学の講堂の階段席を背景にすることで、インタビュー内容に対してこの人物が専門家であるという意味づけを補完している。
どの様な背景の前に居るのかで本人の説得力や画面の印象が大きく変わるので、インタビュー場所の選定には充分な考察をして欲しい。

その背景構築のひとつのセオリーとして、画面上の被写体の視線方向の空間に光のピークを作ると画面が落ち着きやすい。
今回は偶然にも天窓から光が差し込み、雰囲気の良い灯りを形成していたのでそれを画面に取り込んだが、これがなかった場合は平板な背景となっていたのでライトも追加する必要があったと思う。(④天窓からの外光)

またその際、背景と人物の明るさのバランスをどう取るのか、それもインタビューのテーマに合わせて考えることが必要である。
この現場では、実際はもっと背景を明るく見せることも可能であったが、1970年代の中東戦争における政治的な緊迫感を語ってもらうという内容に合わせ、カメラ側のNDフィルターを入れることで背景を暗くし、それに合わせて人物の明るさを調整した。
インタビューライティングにおいては、まず背景に合わせてカメラの設定を決め、それを基準に人物の光量を調整するという順番で作業すると効率的である。
その際、どういう印象に画面を追い込んでいくのかをカメラマンと確認しておくことが重要で、絞り、ゲイン、シャッタスピード、ND、色温度など設定を変えるときは一声かけてもらうことを確認しておく。
相互確認せず、カメラマンは明るいと思ったから絞った、照明マンは暗いからあてた、と双方の基準が曖昧なままお互いの了解なく作業していてはいつまでたっても狙いの画面は作れない。
しっかりモニターを確認しながら次の改善点をお互いに把握して作業することで無駄な時間を減らすことができる。

インタビューライティングとは主に背景を考察することであり、背景に人物を収める作業であることをまずここで理解しておいていただきたい。
背景を大事にしているかどうか、番組の質がはっきりと現れる部分である。

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