【全史】第11章 カネやん劇場、幕引きへ…/1978(昭和53)年
(1)本拠地・川崎球場での始動
1978(昭和53)年の主催試合65試合のうち、野球協約の規定である本拠地・川崎球場で33試合を実施し、残りの32試合を横浜と仙台での開催を模索していたオリオンズに対し、横浜市側の大洋への説得もあり、大洋側は「15試合までならば」と妥協した。しかし、日程決定のタイムリミットもあったため、年が明けて松井静郎球団社長の「中途半端なことは避けたい。川崎球場に全面的にお願いしましょう」という決断で川崎球場で56試合、仙台で9試合を行うことが決まった。
このシーズンは川崎球場での合同自主トレーニングから始まった。昨年までは埼玉県鶴瀬市にある東京証券グラウンドを「借りて」のトレーニングだったが、今年は腰を据えて、トレーニングが出来る環境となった。
前年は自主トレにほとんど姿を見せなかったカネやんだったが、この年は何度も川崎球場に顔を出した。選手の調整具合を見ることはもちろんだが、球場設備の視察も積極的に行った。カネやんは川崎市に対して3点の要望を出した。
1つ目は外野フェンス。川崎球場の外野フェンスには3mの金網が設置されているが、これを2mかさ上げして5mにする。
2つ目はホームベースの位置。2mほどバックネット方向に下げる。
3つ目はマウンド。川崎球場は傾斜がなだらかだが、おわん型に変更する。
以上3点は開幕までに改造することが決まった。さらに、将来的な要望としてロッカーの改修と室内練習場の設置を要望した。
「自分の球場をフルに活用しなければ損だ。相手ベンチに盗聴器でも備え付けるか」
カネやんの口から冗談が飛び出すほど嬉しさが溢れていた。そして改めて気を引き締めた。
「これだけ、わがままを言わせてもらったのだから、石にかじりついてでも優勝しなければならん」。
この年の6月、ロッテ本社は30周年を迎える。年頭に重光オーナーと会談したカネやんは「優勝」を約束した。
2月1日、川崎球場でキャンプイン、9日に鹿児島に移動し。10日から鹿児島・鴨池球場で2次キャンプがスタートした。鹿児島キャンプの初日、カネやんは選手の前で「再び優勝するには、機の熟した今年しかない」と決意を口にした。
オリオンズの前評判は久しぶりに高かった。前年本塁打、打点と2冠王のリー、首位打者の有藤が中心の打線は厚みを増した(以下、()は昨シーズン成績)。一塁・レオン、二塁・山崎(.257、17本)、三塁・有藤(.329、16本)、遊撃・飯塚(306、29盗塁)、左翼・得津(.305、2本)、センター・弘田(.2387、20盗塁)、ライト・リー(.317、34本)、DH・白(.281、16本)。カネやんはレオンに「.270、20本で合格」と話したが、キャンプでは粗削りながら、パワフルなバッティングを見せていた。捕手は高橋博、土肥に野村の頭脳が加わった。
投手陣ではエース村田が健在。前年、後期だけで5勝3敗5Sの三井はフルシーズンの活躍を目指す。ベテランとなった成田も金田留もまだ32歳、野村のリードで復活を期す。水谷、安木の左腕コンビは先発、中継ぎにフル回転を期待、2年目のアンダースロー仁科に大洋からトレードで奥江が加わった。ベテラン34歳八木沢はコーチ兼任となり投手陣を引っ張る。
投手陣は阪急に及ばないが、強力な打線でカバー出来るとの評だった。何よりも移動の負担が少なくなることを評価する評論家も多かった。「阪急を倒すのはロッテだけ」との声も聞こえた。
そのキャンプでは「生涯一捕手」と話し、黙々とトレーニングする野村の姿が目を引いた。「久しぶりに、のんびり野球をやらせてもらっている」と話すが、その姿に選手たちも引っ張られていた。積極的にブルペンでボールを受け、細かいアドバイスもした。
ただ、少し不安な情報もあった。あれだけ強気で押したカネやんが弱気な言葉も口にしているということだった。マスコミを大切にしていたが取材の規制をしたという。試合開始1時間前から一人にしてくれるように要望も出した。何より「自分は監督の器なのか」と口にしたことを聞いた時はビックリした。それだけ、今シーズンに賭けていることは間違いないことだったが…。
(2)ノムさん古巣と初対戦、開幕ダッシュに一役
いよいよ期待のシーズンが開幕した。開幕戦は4月1日、2日の日本ハム3連戦。川崎球場での試合だった。カネやんは「5試合で1つずつ貯金をしていくんや。3勝2敗のペースでいけば、阪急との一騎打ちに持ち込める」と目標を定めた。
25,000人を集めた1日の新本拠地での開幕戦はエース村田が立ち上がりから失点し3-7で敗戦。村田は3年連続開幕黒星スタートとなった。翌2日はダブルヘッダー。第1試合は1対1の緊迫した展開。しかし9回表、5回からリリーフしていた奥江が致命的な4点を失い1-5とリードされたが、9回裏、一挙4点を奪って引き分けに持ち込む。第2試合は2-4から5回裏に5-4と逆転。6回表に一度追いつかれたものの、その裏にスタメンマスクの野村のタイムリーなどで引き離し、7-5で勝利した。川崎本拠地初勝利は5回からロングリリーフした八木沢-野村のベテランバッテリーの奮闘だった。
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