✳︎INTRODUCTION
性に関わる分野に馴染みがない読者にとって、この物語は異様に感じるだろうがこの物語は事実である。しかし事実の解釈について意見の相違が生じる余地がある。
以下の点は間違いがないようだ。
本書に記されているアンドレアス シュパラーはデンマークの有名な画家で80年代後半に生まれた。
結婚した20歳頃は心身ともに健康で夫としての役割を果たすことができた。
数年後、たまたました女装が似合っていた事がきっかけに、何度も女装を繰り返し、彼の中に秘められていた女性性が現れた。彼の友達が冗談半分で女装した彼の姿を“リリー”と名づけた。
徐々に彼は体に異変を感じた。そして彼は''リリーは体を共有しながら確実に存在しているのだ''と気づき始めた。第二の人格"リリー"の存在は段々と大きくなり、一種の双子のようにも思えた。
女性が男性の中に存在していると、月経の代わりに毎月鼻やその他の部位から出血が起きるといった症状が現れた。彼は数多くの医者を頼ったが、彼の不安を取り除ける者はいなかった。
彼は性の原理について勉強を始め、自身の男性器が正常に機能したうえで、未発達ではあるが女性器としても機能しているという結論に至った。
彼の症状を診た医者は精神分裂やホモセクシャルと診断したが、彼は否定をしていた。
ある医師は彼をレントゲンで治療し、アンドレアスは後に腹部に発見された女性器の収縮を試みた。
"どうにかしてリリーが存在する居場所を作らないと生きていけない"と思うほど、彼女の存在は重要になっていた。
既に彼は40歳になっており、翌年までに女性になる夢を叶えてくれる医者が見つからなかったら自殺を図ろうとしていた。
最悪だった出来事は、有名なドイツ・ドレスデン出身の医者を頼った時も、アンドレアスを生まれつき生殖器を2つ持つという他の医者の診断に賛成し、「腹部の小さな卵巣が睾丸の機能を抑制させている」と説明した事だ。しかしその医者は、アンドレアスにベルリンで精密検査を引き受けるよう提案した。そして医者は仮説が立証されたら、アンドレアスの睾丸を摘出し、若い女性の卵巣を移植することを約束した。
アンドレアスはベルリンへ出向いた。
ドイツの医者の仮説を立証し性転換手術へと着手した。1回目のオペは去勢手術を行い、睾丸を摘出した。
数ヶ月後ドレスデンに戻り、男性器切除手術と同時に腹部を切開し26才の女性から提供された卵巣組織の移植手術を行った。少し経ってから管を挿入する手術を行ったが、説明はされなかった。
この頃、彼は自分の事をほぼ女性だと感じていた。
デンマーク国は彼に"リリーエルベ"という女性の名前の新しいパスポートを発行した。そして彼の結婚を白紙を戻した。アンドレアスの提案で、前妻は共通の友達のローマ人と再婚をした。
アンドレアス夫妻と仲の良かったフランス人の画家は、リリーと恋に落ち、プロポーズを申し込んだ。
結婚に同意する前、リリーはドイツの外科医に完全に女性になる手術を終えてなくても結婚できるのか、また性行為を行い、母となれるのかを訊ねた。
完全に女性となる手術を行ったが、程なくして心臓の病でリリーは亡くなってしまった。
※上記の事実は疑いの余地はないようだ。
この事例は当初、秘密にされていたが友人の軽率な発言により情報が漏れてしまった。1931年、リリーが亡くなる前にドイツとデンマークの新聞により報道をされると、センセーショナルな出来事として世間に知れ渡った。