【物語考察】ニーアオートマタ その3
ゲーム『ニーアオートマタ』の物語考察の3回目です。
今回で、この項は終わりです。
なお、この記事はメンバーシップ用として書かれました。が、プラン削除と共に、どなたでも読んでいただける記事に変更されました。
ご了承下さい。
その1では『ニーアオートマタ』のあらすじを紹介し、世界観と主人公であるヨルハたち、そしてアンドロイドについて書きました。
その2では、敵である機械生命体たちと、エミールについて書きました。
それぞれの詳しい内容については、以下の記事をご覧ください。
さて、3回目の今回は、プレイヤーキャラクターについて詳しく見ていくと共に、ゲシュタルト計画やヨルハ計画といった、この物語を考えるのに欠かせない要素について、考察して行きたいと思います。
プレイヤーキャラクターたち
まずは、プレイヤーが操作することになる三人のキャラクターたち、2B、9S、A2について見て行きましょう。
2B
正式名称は、ヨルハ2号B型。
ですが、実際は味方を抹殺する役目を持つ、E型です。
冷静で冷淡に見えますが、本当は情に厚いのだろうと思います。
何度も行動を共にして、何度も殺すことになってしまっている9Sに対しては、やはり特別な感情を持っているのではないか、と感じます。
それが人間で言うところの恋愛感情かどうかは別として、殺したくないし、死なせたくないと思っているのも本当だと思います。
だから彼のことをA2に託したのだろうし、最後に残したメッセージもまた、彼を大切に思っていればこそ、だったのだろうと思います。
たぶん、心の中ではいつも9Sを「ナインズ」と呼んでいたんじゃないでしょうか。
9S以外の人々に対しても、彼女は親愛の情や信頼を抱いていたと思います。
オペレーターとのやりとりは、6Oが女子高生みたいな雰囲気なだけに、ほほえましい雰囲気がありました。
ポッド042に対しては、全幅の信頼をおいている、という感じでしたし、ホワイト司令官に対しても、同じ感じがしました。
バンカーが墜落する前の、司令官とのやりとりは、胸が熱くなるものがあります。
またA2に対しても、任務の上では処分対象として追っていたものの、信頼していたのでしょうか。論理ウィルスに感染した自分を殺すよう頼み、記憶と共に自分の刀と9Sを託しています。
9S
正式名称は、ヨルハ9号S型。
少年タイプのヨルハです。
ヨルハ機体は、男性型(少年型)は全て、S型――つまり、スキャナータイプになります。
戦闘よりも、調査や分析、ハッキングなど、後方支援に特化した機体なのです。
それだけに、人類軍や人類会議の秘密にも気づきやすく、トップシークレットである『人類はすでに滅んでいる』事実を知って、何度も処分されています。
ただそれは、優秀である証拠でもあるので、廃棄されるのではなく、新しい義体を用意されて、何度も戦線に復帰することになりました。
そんな彼は、一見するとちょっと生意気なボウヤ、といった感じですが、実際には情熱家です。
2Bに対しては、愛情や思慕や倒錯的な想いなど、複雑な感情を抱いています。
ただ、彼にとって2Bが全ての1番であることは、たしかです。
なので、彼女を失ったあとの9Sは、徐々に精神的に壊れて行きます。それでも彼が正気を保っていたのは、A2を倒すという目標があったからかもしれません。
彼の件については、2BもA2も、言葉が足りないよなあって気はします。
ただ、ウィルスに冒された2Bには彼にいろいろ話すだけの時間もなく、A2の言葉は9Sの耳には入らなかっただろうから、しかたがないといえば、しかたがなかったのかもしれませんが。
A2
正式名称は、ヨルハ2号A型。
2Bや9Sより前に造られたタイプのヨルハ機体で、2Bのプロトタイプでもあるため、外見は彼女にそっくりです。
A型のAは、アタッカーの頭文字です。
昔のヨルハ機体は、B型(バトルタイプ)が、前線で戦うアタッカーと、後方で戦うガンナーに分かれていました。
A2は、少しばかり大雑把で、細かいことを人に説明したり、考えたりするのが苦手なタイプのようです。
とにかく力で敵をなぎ倒して、前に進んでいくタイプに見えます。
ですが、昔の彼女はあまり前に出ることを好まない、大人しいタイプでした。
ただ、リーダーとして決断するしかない状況に置かれ、仲間たちを失い、人類会議の秘密とヨルハ計画について知ったことから、今のような性格になったのです。
A ・Bルートでは脱走兵として追われるだけだったA2ですが、C・Dルートでは、資源回収ユニットを巡って承認キーを手に入れたり、パスカルたちを助けようと奮闘したり、最後は赤い少女と戦ったりといった活躍を繰り広げます。
Cエンドでは、9Sをポッドに託したあと、崩れて行く塔と共に落ちて死んで行く彼女ですが、その呟きからは、一人生き残ってしまったことへの悔いがずっとあったのだろうことが、伺えます。
ゲシュタルト計画
次に、ゲシュタルト計画について考えていきたいと思います。
これ自体は、どちらかというと、前作の『ニーアレプリカント/ゲシュタルト』の方が主になるものなのですが、完全に無関係とはいえないので、少し書いてみます。
なお、ゲシュタルト計画自体については、以下の動画が詳しいので、参考にどうぞ。
まず私としては、以前にも書いたとおり、そもそも肉体に入ることを考えなければ、別の方法があったんではないか、ということです。
魔王が魔素を供給し続けなければ、ゲシュタルト体もいずれ崩壊体となって滅ぶといえば、そうなわけなんですが……レプリカントを器としてそこに入ったとしても、生殖能力がなければ、どっちみち生物としては終わっているのでは? と思うのです。
宿る自我が違えば、違う人間になる、といった発想もあるかとは思いますが、現在の医学ではすでに、遺伝子によって性格をはじめとする個人の性質は全て決まっていることが、はっきりしているそうです。
つまり、同じ遺伝子を使って作られた肉体は、『同じ人物』でしかないということです。
なので、周囲の環境が違ったとしても、ニーアは何度作り直されても妹のことだけしか考えない人物になるし、ヨナは体が弱い優しい人物のまま、だということです。
一方、もしもレプリカントに生殖能力があれば、男女の間に生まれた子供は、彼らの遺伝子を持ちながらも、まったく同じではない存在として生きられたように思います。
ただ、実際にはレプリカントには生殖能力はありませんでした。
これが医学的な問題なのか、ゲシュタルトの器として以外の役目もあったからなのかはわかりませんが、どちらにしても、同じところをグルグル回ることしかできないなら、発想を変えるしかないと思うのです。
肉体を捨てて、ゲシュタルト体のまま生きられる方法を探す――そういう道もあったのではと、思うのでした。
もう一つ、ゲシュタルト計画が失敗した原因は、「レプリカントと言葉が通じないこと」だと思うんですね。
精巧なアンドロイドが造れる技術があるんだから、翻訳機とか用意しておけよと思ったりするんですが……。
とにかく言葉が通じないのが痛い、と私は思います。
言葉が通じないから、レプリカント側はゲシュタルト側を完全な敵とみなしているわけですし。
『ニーアレプリカント』の中で、私が一番、「言葉が通じていれば」と思ったのは、ロボット山のP-33とゲシュタルト体・クレオのパートです。
母親がマモノとしてレプリカントたちに殺されて一人になったクレオを、ロボットのP-33が助けて守っている姿が、ニーアたちには「マモノがロボットを操って攻撃して来る」というふうに見えているのですね。
言葉が通じず、外見もまったく違うので、相手を最初から「悪い奴」と決めつけている、その結果がこれ、というふうにしか見えません。
たしかに崩壊体は、言葉が通じたとしても襲って来るでしょうけれど、それは言ってみれば、人間にも協力しあえる者と敵対する者がいるというのと同じことです。
あとは、計画のトップにいる者たちや研究者たちが、あまりにも傲慢だった、ということもあるかもしれないと思います。
それはまあ、急ぐ必要はあったのでしょう。
現実世界でのこの三年間を見れば、誰もが少しでも早く病から逃れたいと思うのは当然のことだと理解できます。
ましてや、白塩化症候群は死か怪物化のどちらかしかないわけですからね。
にしても、非道な実験の数々と、魔王に対する嘘と、そして実行は全てアンドロイドに託すという状態。
実行全てをアンドロイドに託したのはしかたがないにしても……。
たとえ最初からエラーが仕込まれていなかったとしても、結局は人類は滅ぶことになったのではないか……と、私には思えてなりません。
ヨルハ計画のはじまり
ヨルハ計画がどうやって始まったのか、については、2017年5月に行われたオートマタの最初のコンサート『人形達ノ記憶』の中の朗読劇で語られています。
この話は後に、小説版の『少年ヨルハ』でプロローグとして掲載されています。
まだヨルハ機体が造られ始めたばかりのころ。
人類軍に所属する技術アンドロイドのジニアが考え破棄した計画を、当時の9号(9Sのプロトタイプ)が発見し、更にブラックボックスが機械生命体のコアから造られていることを知って逆上したあげくに、実行された計画です。
計画は、人類の滅亡をアンドロイドたちから隠蔽し、彼らの士気を高めるためのものでした。
とはいえ、ジニアが立案したのは、月に人類会議のサーバーを設置して人類が生きているように見せかけることと、その管理を13番目の衛星軌道基地、つまりバンカーとそこに常駐予定の専用機体に任せることだけだったのです。
そこに9号はバンカーと管理専用機体の抹消を付け加えました。情報漏洩の危険を回避するためです。
そして、この管理専用機体がヨルハということになるわけですが、彼らはヨルハ計画実行と共に、機械生命体に勝利するためより強い機体であることも、加味されています。
ちなみに、ヨルハ機体のブラックボックスが機械生命体のコアを流用して造られているのは、「いずれ破壊する彼らに通常のAIを使うのは人道的にどうか」と考えられたから、だそうです。
つまり、彼らは本当に最初から――まだヨルハ計画そのものが立案されていないころから、実験体だったということです。
プロトタイプの9号と2号がいたのは、ラボと呼ばれる研究専門の衛星軌道基地でした。
そこで実験のために造られ、実験が終われば廃棄される、そのために造られていたのが、ヨルハ機体だったのでしょう。
ジニアは、もしかしたら上層部に命じられて、彼らを使って「人類は滅んだ」という事実を隠蔽する計画の案を練っていたのかもしれません。そして考えられた計画案はしかし、破棄されました。
ジニアが優しい人物だったからか、プロトタイプたちに情が移ったからか、あるいはその両方だったのかもしれませんが……ともかく、計画は一度なかったことにされたのです。
それを拾い上げて完璧に仕上げて実行したのは、9号です。
そう、9Sのご先祖ともいえる9号なんです。
皮肉というかなんというか……。
朗読劇で初めてこの内容を知った時には、さすがに「そこまでやるか?」と思いましたよ。
だって結局、9Sは自分で自分の首を絞めているって状態に近いじゃないですか……。
『兄弟』というキーワード
オートマタだけでなく、前作も含めてニーアシリーズの中で気になるのが『兄弟』というキーワードです。
兄と弟にまつわる印象的なエピソードはいくつか存在しますし、「兄と妹」「姉と弟」「双子」というのも登場します。
日本では、肉親が大切で何か行動を起こす物語というのはたくさんあって、案外ありふれている気がします。
私が子供のころは、それは親――特に母親が多かったですし、何年か前からは「兄と妹」という関係がクローズアップされることも増えました。
そんな中、ニーアシリーズでは「兄と弟」、そして「双子」がクローズアップされることが多いように感じるのです。
オートマタに登場する兄と弟というと、一番に上げられるのは、アダムとイブでしょう。しかも彼らは双子といっていいかもしれません。
アダムは自分自身の価値観で、ある意味イブを縛っていると言える気がしますし、イブはそんな兄に依存しています。
たしかに兄弟というもの、殊に年下の者は年上に対して強い思慕を抱くものなのかもしれません。
両親がいて上に兄弟がいて、という状況であれば、ものごころがついた時、一番身近であるのは家族です。中でも年齢の近い兄弟には慕わしい感情を抱くものなのかもしれません。
ましてやイブにとってアダムは、たった一人の肉親といっていいと思います。しかも彼はアダムの中から生まれ落ちました。そういう意味では、文字どおり「血肉を分けた存在」でもあります。
だからこそ、兄に依存し、彼の死後はその喪失感からラスボスと化したのではないかと思います。
彼ら以外にもう一組、印象的な兄弟がいます。
それはBルート冒頭に登場する機械生命体たちです。
兄の方は壊れて動かなくなっており、弟の方はそんな兄のために懸命にバケツに油を入れて運んでいます。
弟は、ひたすら兄のためにせっせと油を運び続けます。
見ているともの悲しい気分になって来るシーンですが、この弟もイブと同じと考えることもできます。
というか、ゲームをやった当初は、弟(あるいは機械生命体)に死の概念がないため、油を与えれば動き出すと思っての行動だと思っていました。
けれど、今これを書いていて、そうではなくて、二度と動かないと理解しているけれど、動いてほしくてやっている――イブが、アダムが戻らないと知りながら、2Bたちを倒そうとしたのと同じなのではないかと感じたのでした。
これについては、どちらが正しいのかはわかりませんが……考えさせられてしまうシーンではあります。
最後にもう一組。
双子といえば、デボル・ポポルが上げられます。
赤い少女もそうですが、この物語において、双子は対話のためのツールなのではないかと、私には思えます。
自分一人であれば煮詰まってしまうことを、話し合うための二人なのではと。
というのも、デボル・ポポルはもともとは、ゲシュタルト計画の管理者として造られたアンドロイドだったからです。
一人では視野が狭くなり、計画に齟齬が生じた時の対策も手詰まりになる場合がある、けれど二人ならば、話し合うことで良い策を生むことができるから、という理由だったのではないかと。
ただ、彼女たちが双子で、二人きりで計画の管理にあたっていたことが、結局は計画の失敗の一因だったのではないか、とも私には思えます。
前作にて、デボルを失ったポポルはその怒りと悲しみで暴走します。つまりここでも、イブの暴走と同じことが起こっているわけです。
それは、同じ外見と性能を持ち同じ時に同じロットで造られた双子で、しかも長い年月を共に苦楽を分かち合って来た唯一無二の同胞を失ったがゆえの怒りと悲しみです。
オートマタでは、前作と同型機であるデボル・ポポルが、9Sを塔の中に入れるために奮闘します。
ここでのデボル・ポポルは、何千年も前に同型機が起こした失敗を問われ続け、その償いのために生かされている存在です。
それでもおそらくは、二人であったからこそ耐えられたのではないかと思います。
また、塔のシーンでも、戦いに赴き9Sを助けるためにがんばることができたのではないかと思えます。
派生の物語たち
つらつらとオートマタとその前作について書いて来たわけですが、ここで派生の物語たちについても少し言及しておきたいと思います。
舞台『ヨルハ』
舞台『ヨルハ』のシリーズは、もともとゲーム『ニーアオートマタ』よりも先に作られ、上演されたものです。
原作は、ニーアシリーズの生みの親の一人である、ヨコオタロウさん。
物語は、オートマタの前日譚となっていて、主人公の2号はオートマタのA2です。
この舞台は、ゲームの発売後にも新たなバージョンが作られ、音楽劇やキャスト全員が男性のものがあり、しかもバージョンごとに微妙に話も違っています。
ちなみに、ゲーム内でレジスタンスのリーダーをやっているアネモネは、舞台『ヨルハ』の最初のバージョンにて生き残った人物です。
アニメ版では、同じく舞台『ヨルハ』の登場人物リリィがレジスタンスリーダーを務めていて、アネモネはいません。
なお、この舞台『ヨルハ』の派生として、マンガ版の『ヨルハ』というのも存在します。
舞台『少年ヨルハ』
こちらは、なぜ少年タイプのヨルハ機体が全てスキャナータイプなのかという、その原因となった物語で、同じく舞台作品です。
作中に音声だけですが2Bが登場することから、舞台『ヨルハ』よりもゲームに近い年代の出来事であることがわかります。
ちなみにこちらはキャストが全部男性なのですが、バージョン違いの『少女ヨルハ』では、キャストが全部女性になっています。
こちらには、舞台を元にした小説版の『少年ヨルハ』が存在します。
音楽について
最後に、物語について語るためのこの記事ではちょっと邪道かもしれませんが、音楽について、書いておきたいと思います。
『ニーアオートマタ』の音楽は、本当にすばらしいです。
というか、このゲームにおいては、音楽もまた物語の一部である、といっても過言ではないと私は思います。
もちろん、もともとゲームにおいては音楽は必須だとは思うのです。
音楽には場を盛り上げる効果がありますし、やり終わったあとに、音楽と共に内容を思い出すというのは、よくある経験でしょう。
そんな効果が、オートマタにおいてはより強いと私は思います。
たとえば、廃墟都市を移動する時、ずっと静かに音楽が流れています。それはゲームを続けているうちに、風や水の音のように、ごく自然に耳に馴染んで、この世界の風景に溶け込んで行きます。
この音楽があったればこそ、オートマタの世界はその世界たり得ているのではないか、とさえ思えてしまうのでした。
最後に
長々と書いて来たこの考察文を、最後までお読みいただき、ありがとうございました。