【物語考察】ニーアオートマタ その1
本日より、ゲーム『ニーアオートマタ』の物語考察を3回に分けてお送りします。
なお、この記事は元はメンバーシップ用のものでしたが、メンバーシップのプラン削除により、どなたでも読んでいただける記事に変更しました。
その点、ご了承ください。
今年発売から5年目を迎えたこのゲームは、遠い未来の地球で戦うアンドロイドと機械生命体たちの物語です。
ゲーム自体はマルチエンディングですが、ストーリー的に重要なエンディングはA~Eまでの五つです。
Aエンドルートは、主人公である2Bを操って、衛星軌道上の基地バンカーにある司令部から命じられた作戦(メインクエスト)を実行したり、地上のレジスタンスたちや平和主義者の機械生命体たちからの依頼(サブクエスト)をこなしたりしつつ、各エリアのボスを倒し、ラスボスであるイブを倒せばクリアとなります。
続くBエンドルートは、Aルートとほぼ同じ内容を少年型ヨルハである9Sを操ってたどります。
C・Dエンドルートはイブ討伐後の話で、9Sと脱走兵A2をそれぞれ操って、地中から現れた『塔』攻略に挑みます。
EエンドはC・Dエンド両方を見て初めて行けるルートで、プレイヤーは今までのセーブデータを削除するか否かを迫られたり、ひたすらスタッフロールと格闘させられたりします。が、そこをクリアすれば、思いがけないエンディングが待ち受けています。
以下、ネバタレを含みますので、まだプレイしたことがなくて、プレイしようと考えている方は、ご注意下さい。
世界観
舞台となっている場所は、基本、廃墟です。
廃墟の都市に遊園地、商業施設、森の中の城などなど。
とはいえ、そこに朽ちたり壊れたりして佇んでいるのは、今の私たちにも見覚えのあるものです。
ビルとか車とか団地とかジェットコースターとか……。
時代設定は、西暦11945年ってことなので、そんなものか……とも思いますよね。
けれど、このゲームの前作『ニーアレプリカント/ゲシュタルト』の舞台は、ファンタジー風の世界なんです。
そして、ネタバレになってしまいますが……その前作の最後で人類は実は滅んでしまっているのです。
それはエイリアンが攻めて来るより前のことで……なので、現代の私たちが見知った建物が廃墟になっているのって、実は変なんですよね。
これについては、どこで見たかちょっとうろ覚えなんですが――実はこれらの建物はアンドロイドたちが造ったもので、それを機械生命体たちに壊されてはまた造り直し、壊されては造り直しをしている……とのことだそうです。
ただ、表面上は『人類が残した建物』ということになっていて、保全のための計画だったり、なんだったりがあるようです。
基本、この物語は『人類はすでに滅んでいる』という事実がトップシークレットで、というか、それを隠すためにさまざまな計画が立てられている、というのが本当のところなんですよね。
もちろんそれは、プレイヤーにも隠されています。
なので、私たちはゲームを進めながら次第にこの世界の秘密に触れて行く楽しさ、ワクワクドキドキをも感じることができる趣向になっています。
もっともそれは、ただ楽しいだけではなく、ゾッとしたりせつなくなったり悲しくなったりする部分をも、含んでいるのですけれども。
ちなみに、この廃墟の建物群は白とかグレーとか、明度や彩度を抑えた色で描かれていて、とても美しいです。
そんな中で植物が旺盛に茂っていて、ビルを巻き込んで根を張っているもの、枝葉を伸ばしているものもあって。
その中を鹿やイノシシが闊歩し、鳥たちが飛んでいるんです。
なんだか、人間がいなければ地球はこんなにも豊かな場所なのか……とプレイしながら思ってしまうほどです。
あと、ヨルハたちの基地であるバンカーは、基本白というかモノクロなんですが、これはここが『死の世界』であるからだと公式からは説明されています。
ヨルハ部隊が黒装束なのは、喪服ということらしいです。
ヨルハ部隊とアンドロイドたち
この物語の主要人物に、人間はいません。
けれど、彼らは人間以上に人間臭い、と私は思います。
まずは、ヨルハ部隊とアンドロイドたちについて、見て行きましょう。
ヨルハ部隊
ヨルハ部隊はもともと、上記で説明した『人類はすでに滅んでいる』という事実を隠すために造られました。
前作『ニーアレプリカント/ゲシュタルト』にて、白塩化症候群という不治の病に冒された人類は、そこから逃れるために人を肉体と魂(ゲシュタルト)に分けて病が収まるまで待つという「ゲシュタルト計画」を計画しました。その実行役を人類にかわって担ったのが、アンドロイドたちです。
彼らは人類が滅んだあとも人類のために地球を守り続け、エイリアンと戦っているわけで、『ニーアオートマタ』における最大の目的は、地球を取り戻すことです。
が、人類がすでに滅んでいることが噂で流れると、アンドロイドたちの士気は下がり始めます。
そこで、人類が生きて月面基地にいるように見せかけるため、更にアンドロイドたちの士気を上げるために計画されたのが、『ヨルハ計画』だったわけです――というか、一応そう説明されています。
ヨルハ計画が立案された経緯については、ゲーム内では上記の説明しかないわけなんですが……真相は、2017年に行われたコンサート『人形達ノ記憶』での朗読劇内で明かされています。このコンサートはBDにもなってますし、ノベル版の『少年ヨルハ』の冒頭でも書かれていますので、ファンはある程度知っている話ですが――ここでは、これについては割愛します。
ともあれそんなわけで。
最終的には基地もろとも抹消される運命のヨルハたち。
でも彼らは、己の生を必死に生きて行こうとします。
彼らの体は「義体」と呼ばれ、自我や記憶のデータは定期的にバンカーのサーバーにアップされています。
なので、死んでも生き返ることができるんですが……バックアップされていない記憶は当然ありません。
彼らのこのシステムは、人間の「生まれ変わり」に近いなあと私はなんとなく思いました。
ちなみに、肉体と魂(義体とデータ)については、以前にも少し考えたことがあって、こんな記事を書いています。
上記の記事の最後らへんで書いているとおり、ヨルハたちはすでにクラウド上にデータ(魂)を置いて自由に義体に移れる存在なわけです。
でもだからって万能で幸福なのかっていうと、それはちょっと違うよな……と。
2Bは、実際には上層部に都合の悪いヨルハ機体を排除するための役目を追うE型で、トップシークレットに感づいてしまう9Sの監視者です。彼女はこれまで何度も9Sを殺害していて、9Sはそのたびに記憶をデリートされて、新しい義体で前線へ投入されます。
プロローグで、会って間もないにも関わらず、2Bが9Sの怪我にひどく動揺しているのは、彼女の側は実は彼と面識があるから――なわけですが。
その関係が良好であればあるほど、これは2Bにとってはつらくてどうにもやりきれない状態だろうなあと思います。
これに関してこちらの心をえぐられるのが、サブクエストの『記憶喪失』ですね。
友人が殺されたというレジスタンスから、犯人捜しを依頼されるというクエストです。
実は依頼者のアンドロイドはヨルハE型で、殺された友人は処分対象だったのです。彼女はレジスタンスとして相手に近づき、友人になって安心させてから殺害したと。
でもそれが辛くて記憶を失ってしまったわけです。
このクエストの中で、E型の彼女は2Bに会ったことがある気がする、と言っています。このあたりは、2Bの正体に関して引かれた伏線でもあると思います。
一方9Sは、ここで初めてE型について知ったという意味のことを言っています。が、実際には記憶を消されているだけなわけで、2Bはもちろん、そのあたりの事情を知っています。
なので、そんな彼と最後に狂ってしまった依頼者の姿に、2Bはどんな思いだったことか。
……Eエンドまでクリアしたあと、このクエストを思い返すと、すごく胸に来るものがあります。
このゲームの場合、サブクエストといっても、本編にすごく関わって来たりとか本編を補足するような内容のものもあります。また、ヨルハ機体やアンドロイドたち、そして機械生命体たちの細々した設定だったり、日常だったりを感じさせるものも多いです。
なので、メインクエストを終わらせたあとでもいいので、サブクエストもできるだけクリアするのが、私的にはオススメです。
アンドロイドたち
一方のアンドロイドたちは、もともとはゲシュタルト計画のために人類が造ったものです。
おそらく、ゲシュタルト化した人類が冷凍冬眠に入ったあとは、同じアンドロイドがアンドロイドを造るといった形で、増えて行ったのではないかと思われます。
ゲーム中に登場するアンドロイドは基本的には、レジスタンスです。
ちなみに、レジスタンスキャンプのリーダー・アネモネはもともとは人類軍の兵士でしたが、地上への降下作戦の時に仲間と共に脱走し、地上でレジスタンスになったアンドロイドです。
おそらくは、彼女と似た経緯を持つアンドロイドは、他にもいるのではないかと思います。
ヨルハ機体が造られるまで、衛星基地からは何回か地上を取り戻すための降下作戦が行われているようですし、そのたびに敗北しているとしても、実際には生き残りがいるのではないかと考えられます。
また、人類軍が編制されたのは当然ながらエイリアンとの戦闘が始まってからのことなので、もとから地上にいた兵士ではないアンドロイドというのも、存在する可能性はあるのではないか、と思います。
たとえば、前作から登場している双子タイプのアンドロイド、デボル・ポポルは、レジスタンスキャンプにいるものの、実際にはレジスタンスでもなく、もちろん兵士でもありません。
ちなみに、ここで登場するデボル・ポポルは、前作に登場したものとは別の個体で、同型の機体が過去に暴走したために、他のアンドロイドたちからは厳しい目で見られています。
もともとはゲシュタルト計画を管理するために造られた彼女たちは、この時代には過去の同型の暴走を負い目に感じながら、場所を転々とする日々を送っています。
名前について
デボル・ポポルの事例から推察するに、旧型と呼ばれるゲシュタルト計画実行時からあるアンドロイドたちは、たとえばガンダムにおけるザクとかグフとかのように、同型がいくつも量産されている、ということですね。
プレイヤーにとってはキャラ名といった認識である『デボル』『ポポル』も、実際にはザクやグフのような機体名でしかない、ということです。
一方、『ニーアオートマタ』の元となった舞台『ヨルハ』では、アネモネたち人類軍の兵士にはもともと名前がなかった、ということが語られています。
アネモネという名前は、彼女たちが脱走した時、隊長だったローズにつけてもらったものだというのです。
ですが、同じく舞台『ヨルハ』に登場する司令官やオペレーターには名前があります。
ちなみに、ここで登場する司令官はゲーム本編にも登場しており、舞台及びゲーム公式では「ホワイト」という名前だと紹介されています。
また、ヨルハ計画の立案者はジニアという名前です。
つまり、同じ人類軍兵士であっても、名前のある機体とない機体がいるということです。
名前のある機体は、ある程度軍の中で上位に位置していて、名前のない機体は下位の者、といった感じなのではないでしょうか。
そして、下位の機体は番号で呼ばれていたのではないかと思われます。
だからその法則がヨルハにも当てはめられて、彼女たちは全員が番号で呼ばれているのでしょう。
なぜならヨルハ機体は最終的には全て破棄されることを前提として造られていて、彼らを動かしているのは機械生命体のコアを流用して作られたブラックボックスだからです。
つまり、最新鋭の機体といいながらも、アンドロイドたちから見てヨルハ機体は下位のものだという見方もできます。
そして、だからこそ「感情を持つことを禁じられている」のかもしれません。
私たち人間にとって、機械は機械でしかないように、アンドロイドたちにとってヨルハは、「戦うためだけに造られた機体」という認識なのかもしれません。
さて、本稿はこのあたりで終わりにしたいと思います。
続きはまた、次回に。
読んでいただき、ありがとうございました。