コンセプトで表現活動を自由にコントロールする。vol.1
2020/9/13 初回
コンセプトとは・・・概念、観念、物事に一貫して精通している考え。大義名分、大きなテーマ。
今回は美術家にとってのコンセプトについて記事を制作しました。
はじめに
なぜ今回コンセプトに関しての記事を書こうかと思ったかというと、学生の頃、僕は美術家またはアーティストがコンセプトを持つ必要性が全然理解できなかった経験があるからです。当時の僕は自分の気持ちに正直で、美しいものこそが美術であると思っていました。
現代美術の展示に行くとよくコンセプトという言葉をよく目にしました。僕は学生の頃、現代美術(コンセプチュアルアート)が死ぬほど苦手でした。まったく作品の良さが理解できず、常に展示場では置いてきぼりになったような気持ちになるからと、あと感覚的には上から目線で見られているそんな感じでした。コンセプトにはよく俯瞰したような言葉が使用されるので誰かにあえて寄り添おうとするような言葉は基本的にあまり無いような気がします。冷たい作品と捉えていたかもしれません。
特に嫌いだった理由の一つとしては美術家・アーティストは純粋に作品で勝負すべき!という考えがあったからだと思います。言葉なんて要らないから作品で伝えてほしいという期待を美術家に持っていたような気がします。
ところが活動していく中で、さまざまな作家や美術関係者、起業家に会い、みなさんに接していくうちに最も価値のあるものとはアウトプットされるモノではなく頭の中の思考(種)なのではと考えるようになりました。それが自分の中でコンセプトの必要性や必要意義を改めて考えるきっかけになったと思っています。
*まず私的結論ですが・・・
作家活動を長い目で見るのであれば、あったほうが絶対に良い
(作品をつくる動機には必ず理由がある)
作家としてのコンセプトの事です。(作品個々のコンセプトはまた別になります。)
結論に対しての根拠は順番に述べていきます。
コンセプトが必要な理由①〜③
想像してみて欲しいのですが、
作家活動(作品制作・発表)を続けていくと毎回見に来てくださる方(ファン)ができたり、関係者と連携して仕事をしていくことになります。作品が売れたり、活躍すればするほどファンや関係者からは作家に対して期待が生まれ、それが作家にのしかかってくることになります。その期待は果たして作家が望むものと一致するのかどうか。ココが作家活動を行っていくうえでジレンマになりやすいものの1つです。(作家の展望と他者からの期待の不一致)真面目な作家程、期待に応えようとしやすく、自身の意図とは関係のない仕事も受け入れてしまおうとしがちです。しかもファンから生まれる期待は作家の意図と違うことが割とあります。ここでコンセプトが重要な役割を果たします。
①コンセプトとは作家活動の選手宣誓のようなもの。
運動会で例えると。選手宣誓で「どの競技も一生懸命取り組みます!」と言うのと「好きな競技のみ一生懸命取り組みます!」と宣言するのでは鑑賞者の捉え方は変わります。どちらが良いとかではなく力の入れどころの話です。
つまり何を、どのように、どんな目的で、取り組むかを自身の中で作ること。結果的にそれがコンセプトになります。特に目的が重要。
*必要なのでやる事、必要無いのでやらないことをコンセプトを知った方々に伝えることができます。またファンや関係者が期待する箇所をコントロールする(範囲を定める)ことができるとも言えそうです。
②意味や意義をつくる・伝える
この世には様々なモノやサービスで溢れているのに、なぜこのモノ・サービスを新規でわざわざつくる必要があるのか?という鑑賞者からの無言の疑問に対して理解を助けたり、促したりする役割もあります。
作家が生きた中で何を感じ、何を思い、何を考えたか → だからこの作品が作られている → (それを公開することで)社会においてこのような役割になる。
*これらをコンセプトにニュアンスとして加えられると丁寧。
辻褄を合わせて、読者が自然な流れで意味を理解しやすいものが望ましいです。
③作者自身のため道標
自身の作品の意図や傾向(ベクトル)を明確にするため。
感覚的な言葉や雰囲気などで作品のイメージを持つこと自体は良いと思いますが、自身の制作や作品の概念を創出してコンセプトにしておかないと汎用性を持ちにくく、言葉で説明する時にも毎回ニュアンスの違う説明になってしまうことが起こりがちですので、自身のためにも構築しておくべきです。
●良いコンセプトとは?
良いコンセプトというものは断定しにくいですが、
わかりやすくて誰でもその意味や意義を理解できるものが理想的
細かいポイント
・短文でコンパクトに伝えられるもの
・作品との相互増幅作用(共鳴)するもの
・作者の思考を最大限に作品に活用できるもの
・ターゲット層に興味をもたれるもの
・自分にしか言えない又は伝えられないもの(掛け算できるものの数)
・抽象化しやすいもの(その他のジャンルでもイメージできる)
・暗黙知を考慮した上での言葉選び
(暗黙知とは・・・言葉にすることが難しい知識、感覚知とも呼ばれる。)
*これに関しては時代や大きな出来事がものすごく影響します。現代を生きている人間は一体何を楽しみ、何に不安を持って生きているのか。たくさんの人々が持っている知識、感じやすいこと(イメージ)、生活様式などを把握しておく必要があります。それらによって同じ言葉でも伝わる内容が変わったりします。どういう言葉を使えば人々に最も効率よく、理解しやすく、コンセプトを伝えることができるかに影響するからです。
例えばコロナを経験した人類では『リモートワーク』の意味が特定の人達のみの事ではなく、意味が広域になったと思います。
●どんなメリットがあるのか
ざっくり言うと、、、
パッと見るだけで理解しにくいものに対して、理解を促す。
作家にしても、会社にしてもコンセプトがあるかないかではお客さんが作品や商品を見た時に抱くイメージや感情が変わります。
コンセプトがない状態で作品や商品をお客さんが見た時、お客さんは自分にとっての都合で物事を考える傾向があるので、作者の意図や思考や作品背景をうまく伝えられない可能性が大きくなります。その状態ではお客さんに全ての判断を委ねてしまうことになります。(すべての判断を委ねたい場合は問題無いとおもいます。)
お客さんに委ねてしまうとダイヤモンド似のガラス石(キラキラした石)と月の石(地味な色の石)を同じ価格で説明も無しに並べた時、選ばれるのはおそらく前者のはずです。なぜなら人はキラキラしたものに価値がある一般的な傾向を知っているからです。しかし後者が月の石であることを知れば判断は少し変わってきたりします。
このように内在している事実(表面的にわからない事)を伝えるだけで人の判断は変わったりします。ここでいう月の石のようにコンセプトを活用できると理想的。
〔追記〕
コンセプトがない場合、一般的には人が作るモノやサービスは生きていくうえで明らかに必要なもの(実用的)か、超絶技巧で唯一無二のスゴイもの、のどちらかであると人々に認識されやすいです。なぜならどちらもこの世に存在する意義がわかりやすく、理解しやすいから。
美術やアートの分野においては超絶技巧で唯一無二のスゴイもののイメージがあるかと思います。おそらくそれは当たっているとおもいますが、スゴイと思わせる部分が一体どこであるのかということを説明する必要があるということです。
アイデアなのか、技法なのか、思考なのか。。。
そこに関しては作家の人間性を加味する必要があるのでお任せということしかできませんが、次回のvol.2で触れれたらと思います。
今回のまとめ
〈コンセプトが必要な理由〉
●コンセプトとは作家活動の選手宣誓のようなもの。
●意味や意義をつくる・伝える
●作者自身のための道標
〈良いコンセプトとは〉
●わかりやすくて誰でもその意味や意義を理解できるもの
〈コンセプトの効果〉
●パッと見るだけで理解しにくいものに対して、理解を促せる。
世の中には色んな過去、出身、興味、仕事、生活スタイルを持った人がいて、1つの作品に対しての解釈は人によってばらつきやすく、さらに世の中には様々なモノ・サービスが既に溢れているので、新たに作る意味が必要になる。コンセプトとは作家が自身の表現領域をコントロールし、よりよく続けていくためのサバイブ術でもあるように思います。
なので
作家活動を長い目で見るのであれば、あったほうが絶対に良い
です。
+αで
作家として絶対避けたいことは、、、
結局、何をやっている人かわからない
(無関心でスルーされる事)
ということです。
確かに作品で全てを伝えることができれば願ったりですが、その道は激しく険しい。
いろんな考えを持った人がいて、いろんな背景を持った人がいるので、作品の公開だけではどうしても伝え切れない事が生まれてしまったり、また誤解を生む事にもなる。
それを少しでも無くし、前提条件としてコンセプトを持つことは鑑賞者にとっても、作家にとってもお互いにプラスに働かせる事が可能になりやすい。
(もちろん効果的なコンセプトである事が前提です。)
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