残業代は・・・ケーキです
働き方改革という言葉が世間に浸透する中で、ワタシがいた保育業界は昭和のやり方をそのまま受け継ぎ、年功序列の厳しい環境の中で子どもたちと向き合ってきました。
9年間の保育人生では、想像もできないような珍事件が巻き起こっていました。
どれだけおかしいことをされていても、どれだけ劣悪な環境で働いていても、「これが社会の厳しさなんだ」と思うしか出来なかったんです。
その一つがこの、残業代にまつわるお話なのです。
社会人1年目で働いた場所は、地元から少し離れたところにある幼稚園でした。
ボロボロの園舎に吹きっさらしの廊下。そして手入れの行き届いていない園庭。
それが初めての職場でした。
低賃金、重労働という言葉がピッタリな場所で保育士として働き、園長や副園長は立派な車やバイクに乗って颯爽と現れ、好き勝手なことを言って颯爽を帰っていくのが当たり前でした。
定時なんて言葉はこの園の辞書には記載されていないらしく、定時時刻の17時から狭い部屋で正座をしながら職員会議が始まり、先輩保育士の鬱憤を晴らす会として約1時間ほどの小言を聞かされていました。
朝早く来て、夜遅く帰っても残業代はもちろん出ることはなく、たとえ自分の仕事が終わっていても怖い鬼のような先輩が帰るまでは決して帰ることは許されません。
電気が消えて、ドスドスと廊下を歩いていく音を聞き終わった頃に、自分の荷物をまとめて帰る準備を始めていました。
今でこそ、保育士の給料の安すぎることは理解できるけれど、新人だったワタシには少ない給料でも嬉しくて、月に一度の明細を確認することだけが唯一の楽しみになっていたほどです。
しかし、そんな残業代に革命が起きました。
ある日、いつものように狭い部屋で身を寄せ合いながら会議をしていると、ガラガラと勢いよく扉を開ける音がしました。ふと顔を上げると、のしのしと優雅に園長が登場したのです。
手には白くて小さな箱を持っており、私たちの目の前にドンと置いてこう言いました。
「あんたたち、いつまで残ってるのぉ〜。ほらぁ、これケーキあげるわぁ。いつも頑張っとるもんで、残業代だわぁ。ハッハッハッハッ」と。
突然の出来事に困惑していると、鬼のような先輩は顔色をファっと変えて、「園長先生いいんですか!?えぇ。嬉しすぎますぅ。いただきます🎵どれにしようかな」と箱を開けて選び始めました。
その姿を見ている園長先生は、もうそれはそれは「やってやったぞ感」満載の表情を浮かべていたのです。
先輩が箱の中身を吟味している間、新人の私たちは立ち上がりながら少し遠目でケーキを眺めていました。箱の中には明らかにここにいる人数分には足りていないケーキたちが申し訳なさそうに箱の中に詰められており、王道のショートケーキやチョコレートケーキも少ししかなかったので、もちろん先輩たちが選んでいきます。
ということで新人の私たちに残されたケーキは、いちじくとか名前もよくわからない謎の色をしたケーキとか、ショーケースの残り物としていたであろうケーキを分けて食べたのです。この残業代と称したケーキは毎月もらえるわけではなく、園長の気まぐれで年に2回ほど登場したような気がします。
今考えても残業代がケーキだなんておかしすぎるのですが、当時のワタシは「ケーキを買ってもらえるなんて」とむしろ喜びすら感じていました。ケーキを食べながら(社会人てこんなに大変なんだ・・・)と思っていたのは、今となってはいい思い出です。
保育業界のあらゆる闇の部分を見続けてきたワタシですが、読んでくださる読者の皆さまには、ニュースのような堅い感じではなく、ほんの少しでも知ってもらえるような形で書いていこうと思います。
今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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