◾️織恵的パートナーシップ②適度にやり返す
恋人のように仲良し、でもなく、感謝の気持ちも定期的に忘れ、お互いの欠点は今だに罵り合い、言いたいことはめんどくさいからもはや言わない。
見事、世の中でいう
「いい夫婦ランキング」の逆を闊歩しつつ、
なんとか結婚26年目を迎えた夫婦の妻の方が語る
「ラブじゃない夫婦だけど、なんだかんだやってこれた話」
読んでくれた人がちょっと肩の力が抜けてくれたら嬉しい。
織恵的パートナーシップ全6シリーズ中2作目。
*・゜゚・*:.。..。.:*・
【織恵的パートナーシップ②適度にやり返す】
あなたは、
飲むタイプの下剤が甘いということを知っているだろうか。
灰皿の角で夜な夜な夫の頭をかち割る妄想リフレッシュを試みていた当時20歳の私は、
か弱く、儚く、健気だった。(織恵的パートナーシップ①)
眠れない地獄の時刻は毎日必ずやってくる。
クタクタの体、苛立つ感情を抑え、どこかにいるはずの神様に祈りながら、その夜も必死に寝かしつけを試みる。
そんな私を支えていた言葉はただ一つ
「自己責任」それだけだった。
残念ながら、いつかどこかの王子様がそんな私を迎えに来ると思えるほど少女ではなかったし、かと言って離婚だ何だと言い出せるほどのエネルギーもなかった。
19歳での妊娠、出産。
真っ当に働いた経験もなく、家出同然に飛び出してたということもあり、今更実家になんて戻れないし、そもそも逃げ出した場所になんて戻れるわけもない。
かといって、パートに出て、乳飲子を抱え、
自分1人の稼ぎで生活していく自信もない。
悲しいかな、なんだかんだ言っても夫の給料が生活の頼りであることには変わりがないのである。
仕方がない、せっかくなので可哀想ついでだと
シンデレラになりきってみたけれど、3時間で飽きた。
そんなある朝のことだ。
相変わらず亮夏は寝ず、いびき高らかに眠りにつく夫の背中を冷ややかに見つめながら一晩過ごし、ため息混じりに朝を迎え、弁当を作りかけたその時だった。
キッチンにポツンと佇む一つの目薬みたいなそれが目に溜まった。
下剤だ。
今こそ食生活を見直してから改善されたが、
当時の私はひどい便秘で、下剤を飲まないと1週間も10日も平気な顔して腸は動かなかった。
ふと子供の頃に見た衝撃的なニュースを思い出した。どこかの村で庭に生えていたトリカブトを使った殺人事件があったということを。そう、私はトリカブト世代だ。
夫は毎朝決まって缶コーヒーを飲む。
しかも加糖タイプときた。
私は知っていた。下剤は甘いということを。
どうする?いれるか?
プシュっと缶をあけ、中を覗き込む。
………迷う。
お腹の弱い夫のことだ、きっとすぐに下すに決まってる。ざまぁ、と思う自分と、本当に手を下していいのかという迷いが、何度も交差する。
たかが下剤、死ぬわけではない。
しかしだ。実際に手を下すという事は、
何か大きな一線を踏み越えてしまうような気がした。
右手に下剤、左手に缶コーヒーを持ちながら
そんなこんなしてるうちに、夫が起きてきてしまった。
サッと下剤を隠すも、なぜか思わず私はニヤッと笑ってしまった。
「え、何してんの?」
そらそうだろう。誰がどう見ても怪しい。
朝起きたら妻が右手に下剤、左手に自分の缶コーヒーを持って立っているのだ。
仕方がない、私は観念することにした。
「ごめん、色々むかついたから下剤入れようと思っててん」
ニヤニヤと笑いながら本当のことを彼に伝えた。
「うそやろ、お前、ほんまは入れたんやろ!おい、入れたんやろ?!」
「まだ入れてないよー。」
なぜだかニヤニヤが止まらない私に夫は言った。
「お前、まじでやばいって」
そう言って夫は缶コーヒーを逆さまにして
大急ぎで排水溝にダバダバと捨てている。
そんな彼の背中にそっと手を置いてこう伝えた。
「あんた、気ーつけや。自分の行い気ぃつけな、次はトイレから出られへんようになるで。」
しばらくの間、夫はコーヒーを飲むことが怖かったに違いない。私もそれを横目で嬉しそうに眺めていたが、いつの間にか忘れてしまった。
家の安全とは、決して当たり前ではない。
夫婦で築き上げるものなのだ。
そんな日も超えて、彼は今すっかり緩んだ顔でコーヒーを飲んでいる。
ではお伝えする。
▶︎織恵的パートナーシップ②適度にやり返す
実行せずとも、企みをバラすことでやり返せる。
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