アメリカの陰謀かもしれない
鼻の頭がかゆくてたまらなくなったので、手についた油をペーパーでぬぐってから、おもうぞんぶん鼻の頭を搔きました。
掻いても掻いても一向にかゆみはおさまりません。手の油をいちいちぬぐうのも面倒になるくらい、何度もかゆくなりました。
面倒に思ったのは、楽しくポテトを食べていたからです。
ポテト、口、ペーパー、鼻、の繰り返しに心底嫌気が差したので、人さし指をまげて第一関節の骨で掻くことにしました。掻くというか、こするに近いですが、搔きすぎても後々ヒリつきそうなので、この少し物足りないくらいがちょうど良いのではと思います。
ポテトはこれまでどおり指のハラでつまんで食べました。右手のウラとオモテをうまく使い分けた訳です。左手で掻けばと今書きながら思いましたが、どうして私は左手を使わなかったのでしょう。
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アメリカの陰謀だと父は言います。マクドナルドのポテトがです。他のポテトだと痒くならないのにマクドナルドのポテトを食べた時だけ鼻の頭がかゆくなるんだよなあ、オレそれ突き詰めるとアメリカの陰謀じゃねえかと思うんだよな、と嬉しそうに。
父は、アナウンサーとコメンテーターが画面の中で楽しそうに話しているだけで「この二人はデキとる」と楽しそうだし、列島警察24時では違法パブや麻薬密売組織の摘発とかに目を輝かせるし、最近地上波ではあまり見かけなくなったけど超常現象スペシャルも大好きです。
どうでもいいところに想像力を全力で働かせてあれこれ考えを巡らせるのが好きなんだと思います。
父の陰謀論を、当時の私はスマホに映るマクドナルドのメニュー画面を不必要に上へ下へスクロールしながら話半分に聞きました。正式な名称はマックフライポテトだそうです。
ここでジョージ・マクフライのマクフライはどういうスペルだろうと私は急に気になり始めます。そうなるともうなんにも頭に入ってきません。父の声は春風になりました。
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あれ本当だったんだ。数年前、父が楽しそうに披露していた陰謀論。陰謀のくだりは分からないけど、私も父と同じ、マクドナルドのポテトで鼻の頭がかゆくなる体質だったなんて。何の因果でしょう。
あの時、父は油のついた手で鼻を触ったりはしていないと言いました。いや触ったでしょ、ポテトの油が鼻に付いたからだよ、油が表から悪さしたんだよ、とハナから疑ってかかった自分が恥ずかしいです。今なら信じてみる前提で話を聞くはずです。
自分が同じような経験をしたり、その立場に立ってみないと、当事者の気持ちを本当の意味では理解できないものです。想像力の欠如です。
たとえ共感できなかったとしても「そんな事あり得ない」と「そんな事もあるんだねえ」では大違いです。ポテトに教わることもあります。
鼻は私だって触っていません。ジョージ・マクフライのスペルはあのあとすぐ調べました。