100円玉を握りしめて駄菓子屋へ出かけたあのころ
「おかーさん、おおわださんに行ってくる!」
小学生の頃、弟と一緒に近所の駄菓子屋によく出かけた。
自宅の前の道路を渡ってすぐ、歩いて150メートルの場所にタバコや日用品と一緒に、沢山の駄菓子を売っているお店があった。大和田さん家のお母さんが切り盛りしていたので、わたしたちはそのお店を「おおわださん」と呼んでいた。
学校が終わると弟とふたり、うきうきしながら出かけたのものだ。手を繋いで、100円玉を握りしめて。
昭和の終わり。駄菓子屋「おおわださん」さんでよく買ったお菓子を思い出してみる。
糸引き飴
天井からぶら下がった糸の先に、円錐型のカラフルな飴が1個ずつ付いていた。大小さまざま、なかでも握りこぶしほどある赤い大きな飴は、どれよりもキラキラと光っていた。
「あの大きい飴が当たりますように」とお祈りしながら糸を選ぶ。けれど引き当てるのはいつも小さい飴。ちなみに、知っている限り誰もその大きな飴を当てたことはなかった。
チョコケーキ
おせんべいサイズの薄いスポンジにチョコレートがコーティングされたもの。箱にひとつずつ並んでいて、その上に透明フィルムが無造作にかけてあった。今だったら衛生上良くないと言われそうだけど、そんな時代。
麩菓子
大きくて、黒い砂糖がたっぷりついているものを選ぶ。角のしっとりした部分を頬張ると、蜜がじゅわっと口のなかに広がる。思ってもいない位置でパリッと折れたりするから、むせないように、フガフガと鼻息を荒くしながら食べる。
フーセンガム
小さい箱に丸いガムが四つ。グレープ味もあったけど、オレンジ味がお気に入り。
五円があるよ
定番。100円ぴったりになるように、うまく使いこなす。ふにゃっとした食感の柔らかいチョコレート。現在はいくらで売っているのだろう。
たまごアイス
ほんのり優しいミルク味のアイス。丸い形のゴムに入っていて、先がぷっくりと膨らんでいる。見た目は100%おっぱい。だから、わたしたちは「おっぱいアイス」と呼んでいた。
ふくらんだ先をはさみで切ってもらって、おっぱいをちゅーっと吸うように食べる。ちょっぴり恥ずかしいので、友達の前では買わずにいた。
思い返すと、狭いお店の中をうろうろしながら時間をかけて選んでいた。言い換えれば、優柔不断。そして、シンプルな味のものを、ビニール袋いっぱいに詰めるのが好きだった。
しかしながら、3歳年下の弟は、買い方も、選ぶお菓子もまったく正反対。
即決。そして、金額の高いものを平気で買う。100円ひとつとか、50円をふたつとか。そして、クセのある味のお菓子を選んでいた。
弟が買っていたもの。
ねるねるねるね
実験系のお菓子は珍しく、みんなこぞって買っていた。新しいもの好きの弟は、夢中になって白い棒でぐるぐると粉末をかき混ぜていた。おいしそうに食べていたけど、どうだったのだろう。
三角くじ
景品はなんだったのか、よく覚えていない。たしかスーパーボールだったかな。三角くじの他に、箱型のくじもあった。好きなゾーンを選んで、ぺりぺりっとふたを剥がすタイプ。
ビックリマンチョコ
1個30円、弟はいつも3個買っていた。もちろん目的はシール。弟はチョコレートが苦手だったから、ピーナッツ入りのチョコウエハースは必然的にわたしのお腹の中へと消えていた。
さくらんぼのおもち
1センチ四方の小さな薄紅色のゼリーがいくつも並んだパッケージ。宝石みたいにキラキラしていた。
ヨーグルトのようなもの
記憶が定かではないが、グリーン色かピンク色の容器にヨーグルトみたいなものが入っていた。木製の小さなスプーンで、すくって食べる。すっぱいの? それとも甘いの?
子どもながらに好みはそれぞれで、面白いものだ。
しばらくして、弟とわたしはお互いに同級生の友達と遊ぶようになって、わたしは習い事を始めた。
ふたりで駄菓子を買いに行ったのは、ほんのわずかな期間。でも、手を繋いで一緒に歩いた夕焼け道は、今でもぼんやりと目に浮かぶ。
◇
40歳を過ぎ、今はある程度自由にお金を使えるので、時には高価なものも買う。しかしながら、いまだに「とにかく安く、袋いっぱいに」がひょっこりと顔を出す。
県外に進学・就職して、年末年始に実家に帰省するたび、母と一緒にデパートに行き、好きな洋服ブランドの福袋を買っていた。
うきうきしながら大きな袋を開けてみると、奇抜な色だったり、デザインがいまいちだったり。これといって気に入ったものがなくがっかりする。わかっているのに、つい買ってしまうのだ。
そんな姉の様子を見て、弟は「ねーちゃんは、福袋好きだよな」といつも笑っていた。
当時、弟は地元でも有名なアパレルショップで働いていた。先の尖った皮のブーツに、細身のジーンズ、ごつめの指輪。
そう。身にまとっていたのは、子どもの頃と同じように「ちょっと高価で、クセのあるもの」。
子どもの頃の好みとか、お金の使い方というものは、案外大人になっても変わらないのかもしれない。
◇◇◇
最後までお読みいただきありがとうございました。
本記事は、拝啓 あんこぼーろ様の企画「あのころ駄菓子屋で」への参加記事となります。
拝啓 あんこぼーろ様。このたびは素敵な企画をありがとうございました。
どんなお菓子を食べていたかしらと記憶を辿ったら、まあ、どんどん出てくること。書ききれません。
みなさんは、どんなお菓子が好きでしたか?