ユーミン「PEARL PIERCE」楽曲とイラストレーター安西水丸さんの歌詞ブックレット
やった!出たわ!ユーミンの新しいアルバム、「PEARL PIERCE」です。
40年近く前の今頃、梅雨明けが待ち遠しい1982年6月21日、13枚目のアルバムがリリースされました。
大学に入学して数ヶ月のわたしは、まさに「大人になったら 宿題は なくなる ものだと 思ってた」(1曲目「ようこそ輝く時間へ」)わけで、初めての小論文形式の筆記試験なんてどうでもよかった。
「輝く時間」を思う存分享受したかったわたし。
ところが、どうでしょう。
このアルバムに登場する女の子たち。
2曲目「真珠のピアス」では、彼と最後の夜明けには、ジェラシーから自分の真珠のピアスの片方をそっと彼のベッドの下に捨てた女の子。
4曲目の「フォーカス」は、ドキンちゃんメガネ故コンプレックスを持つ女の子。
7曲目では、あなたにふさわしいのは私ではない、と電話を切った後に思い切り泣く「DANG DANG」の女の子。
極めつけは、最後の楽曲「忘れないでね」の、彼の横に眠る人がいるのを知りながらも好きになってしまった、今でいう不倫している女の子。
この女の子たちのような恋愛なんて決してしないわ、わたしには輝きあるのみよ、とアルバム「PERL PIERCE」を聴くたびに、わたし自身を鼓舞させ、勇気づけていたっけね。
ところで、ユーミンの楽曲はどれも歌詞とメロディ、サウンドが一体化し、聴く人にその情景・風景を描かせます。
もちろん、アルバムのジャケットや歌詞カードも一役買って、連想する情景や風景がもっともっと濃厚になっていきます。
わたしにとってユーミンのアルバムひとつひとつは、読む随筆、読む小説ではなくて、”聴く随筆”、”聴く小説”でありました。
歌詞カードの表紙は、グリーン地の上質そうな素材のカットソーを無造作に着込んだ女性。
イラストレーター安西水丸さんが描いたものです。
「PEARL PIERCE」発売30年以上の時を経て、安西水丸さんの急逝後のテレビ特番で、ユーミンは表紙の女性を「北青山のマチス、画風がね、、、。実際、すごくお好きだったと思うけど、、、。」とコメントしています。
さらに、ユーミンは歌詞カードを一ページ一ページずつ丁寧にめくりながら述べます。
「このアルバムの歌、世界がみごとに凝縮されていて、本当にすごいな・・・」
当時、表紙の女性が、性愛は自己完結させ理性を立派に貫く女性に見えたのは、わたしだけだったのかもしれません。
また、絵本のような歌詞カードに描かれた世界と、楽曲にある女の子たちの恋愛物語の世界を融合させようにも融合させられなかったのも、わたしだけだったのかもしれません。
多感であり敏感だった当時のわたし自身を、ある時は懐かしみ、ある時は恥ずかしくなるほどの年齢になった今、その原画に触れようとイラストレーター安西水丸展を訪れました。
謎解きができるかもしれない、という期待が心の底にありました。
パンフレットには小さな文字で「その人にしか描けない絵を追求し、身近なものを独自の感性で表現する安西水丸さん」
また、安西水丸さんが「ニューヨーク暮らしで大切におもったことは、日本の良さをしっっかりと知ることだった」と著書『a day in the life』で綴っていることを知りました。
アルバムのキャッチコピー、恋・愛・想・波乱万丈・刺激的といったキーワードを、数々のフルーツ、マンハッタン高層ビル街の絵葉書や航空便の封筒、真赤なルージュ、ビバリーホテルのマッチにキャメルの煙草、チンザノの灰皿などなどに、上手にすり替えていった安西水丸さん。
キラキラ輝く80年代の幕開けに相応しい歌詞ブックレットです。
親交の深かった嵐山光三郎さん、村上春樹さん、和田誠さんから誕生した作品に焦点が当てられた展示会ではありましたが、ユーミン大好きのわたしにとって、当時を回想する貴重な機会ともなりました。
自宅で無造作に置かれたLP。
早く、レコードプレーヤー、買わなきゃね。