― 「ところかまわずナスかじり」第七十一話 足を洗う ―
おいっ!聞いてんのかっ!
捜査ってのはなぁ、足を使ってナンボなんだよ!足、足!聞き込みっ、張り込みっ、ぜんぶ足だ!頭じゃねぇ!足だっ!まずは現場に行く!すべてはそこからの話だっ!いいか!
大体、上のヤツらはこれを知らねぇ!頭ばっかりでかくなりやがって。リロンだぁ?ヨソクだぁ?トーケイだぁっ?そんなもん、事件の解決には何の役にも立たん!クソだ!カスだ!カビだ!
歩くこと!
これだけ!
一も二もなく歩くこと!
これが解決につながる!
この前の松下事件!覚えてるよな?あのとき俺の提示した最終的な証拠!部屋とワイシャツとタワシ!
あれはな、それこそ俺が足を棒にして、歩きに歩いた結果、ようやく探し当てたもんだ!
それから野木坂事件もそうだ。
あの亭主の浮気相手のオカマの存在!あれは俺が変装までして上野にあるその手の店に通い詰めた結果、突き止めた存在だ!今でもケツが痛いっ!
そして矢追町事件!
ありゃぁ、おまえ、・・・・ターニングポイントだったなぁ。
あん時、あのタクシーの運ちゃんのアリバイのおかしさに気づいたのは俺だけで・・・。ほら、運ちゃんのタクシーの助手席前ある身分証明書の写真、ひそかに俺のに替えただろ?ありゃあ、おまえ、二週間は気づかれなかったよなぁ?髪の毛はない、眼鏡かけてるし、横向いてる・・・。何で気づかれない?
問題はよぉ、なんで俺だけ運ちゃんに目を付けたか、だ。分かるか?・・・足をよぉ~、使ったからだよぉ~。
そして一番はやっぱり、国税庁騙され事件!
あんなウソ上手、俺は初めて出会ったな。
刑事になって教わることに、『人間はウソをつくときアラが出る。視線やちょっとした動きに注意しろ』だなんて言われるだろ?
そんなことはなぁ、どうでもいいんだよ!
足だよぉ!足を使うんだ!
そしたらアイツ、泣きだしやがってな。はっはっは!
あの後、署長とかなりもめたけどな・・・。
何度も言うけど、足だよ、足!小江戸事件!美濃坂事件!六の時間事件!ぜんぶだっ!ぜぇんぶっ!俺のこの足を使ったんだよぉ。分かるかぁ?
・・・で、俺、辞めるね。
あ、ううん。今日じゃないよ。有給あるから・・・。
え~っと、今月末まで。
ん?次の仕事?ああ、もう決まってるの。歯科助手。
うん。いや、資格なんてないんだけどさぁ、なんか、資格とかいらないってとこ行くの。そう。あ、でもこれから頑張って資格とかもとっていくつもりだけどね。うん、面接で聞かれたんだけどね。やっぱり資格あるのとないのとじゃあ、仕事の任され方とか給料とかが全然違うんだって。そうそう。
あとはよろしくね。でも、ちょうど神田町会長爆発事件も解決しそうだしさ。タイミングとしては良かったよね。うん。
あ、もうこんな時間じゃん!俺、もう上がんなくちゃ!
実は今、ひそかに歯科助手の勉強しててさ。結構忙しいんだよね。じゃ、おさきぃっ!ごめんねっ!本部長にもよろしくねっ!じゃっ・・・
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