― 第十五話 セミ ―

オイラはボーカルだったのさ。
ある日、コーロギやろーがあらわれて、オイラのポジション盗ったのさ。
コーロギやろーなんてさぁ、なに言ってんだかわかんねぇよ、ねぇ?
オイラなんかはわかりやすいや。「ミーン、ミーン」っつってさ。
セミの中でもさ、色々温度差あるんだけど、アブラゼミやろーなんかはさ、「ジー、ジー」って、しめっぽくていけねぇや。
あと、ヒグラシのやろー。ありゃあ、大衆受けしねぇーっつうの。

やっぱりさ、ボーカルっつたらバンドの顔だろ?
見た目も大切だしさ。
あ、俺のこの羽見てよ。
毎日磨いてんだぜ。テカッてんだろ?
将来はさ、歌だけじゃなくてさ、ちょっと、俳優とかにも興味あんの、俺。
俺、マルチアーチストだからさ。

わっ!
な、なに?!
携帯の着信かよぉー!おいーっ、おどかさねぇでくれよなぁっ、もうっ!
なんなんだよ、その音?
え?『コーラを開けるときの音?』
そんなの着信にしてんの?
はははは!
へんじゃね?マジ受けるー・・・・。

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